怪我してなくたって疲労は溜まってるはずなんですけどね

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怪我してなくたって疲労は溜まってるはずなんですけどね

 あれから森を抜けたローヒンたちは、すぐそばに宿屋があるのを発見した。日が暮れそうだったので今日はここで泊まることにした。  ウォーリッシュが宿屋を見上げながら言った。 「怪我もしてへんのに宿屋入って寝るんかいな」 「RPGの常識をここで通じさせようとすんなや。夜なったらどっか入って寝るのが普通やから。それに怪我ならしてるで」 「え、どこに?」  ローヒンは自分が先ほどウォーリッシュに掴まれた左手首を見せた。まだ痕が残っている。 「これは怪我ではないやろ」 「でも痛かったわ、かなり」  ウォーリッシュはやれやれという風に首を横に振る。 「ローヒンさん、あんたこないなことでいちいち宿屋に泊まってたら、これからの旅が大変や。少しは我慢ということを覚えんとな!」 「誰のせいや思てんねん……」  ローヒンとて手持ちが少ないのでこんなところで無駄遣いはしたくない。 「まあローヒンさんがそこまで泊まりたい言うんやったらしゃあない。泊まったるわ」 「あんたな……」 「それにしてもここいくらやろ」 「こないなところの宿屋やからな、せいぜい百ゴールドくらいやろ」  ローヒンは宿に入ろうとした、がウォーリッシュがそれを阻止した。 「ちょい待ち、ローヒンさん」 「ん? どうした」  ん、と聞き終わる前にウォーリッシュがいきなりローヒンの顔にパンチをくらわせてきた。 「ぎゃっ!」 「そんでこうや!」  そして今度はローヒンの襟を掴み木に向かって投げ飛ばす。 「うお!」  バンッ、と思い切りいい音がして、ローヒンはへなへなとその場に倒れ込んだ。 「大丈夫か、ローヒンさん?」 「投げ飛ばした張本人が何言うてんねん……」 「いやあ、やっぱ宿屋泊まるのに何も怪我せえへんで泊まるいうんはもったいない思てな」  ははは、と笑うウォーリッシュを横目で見上げ、この先自分は大丈夫かいな、と先行きに不安を抱え直すローヒンであった。
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