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宿屋に着いたからといって簡単に泊まれると思ったら大間違いです
ニコニコ笑顔で出迎えたのは、ローヒンからはなかなか美人に見える少し年上っぽいフリフリのエプロン姿の女の店員だった。
「あらまあ、酷いお怪我ですね。お帰りくださいませー」
「いや何でやねん。怪我してんねんから泊まらせろや」とローヒン。
「ここ宿屋やろ」とウォーリッシュ。
「確かにこちらは宿屋でございますけれども、あなた方はどこをどのように拝見いたしましても、お金をお持ちになっているようにはお見受けできませんので、どうぞお帰りくださいませー」
ニコニコ笑顔は崩さず言葉遣いも丁寧、まさに店員の鑑である。あくまでも笑顔と言葉遣いだけだが。
「偏見がすぎるな」とウォーリッシュ。
「言うてること失礼過ぎて丁寧なんが余計腹立つわ」とローヒン。
すると、いきなりカウンターに頬杖をつき始めて面倒くさそうに返す女店員。
「安いから言うて泊まらせておいて、後で高額請求するぼったくり宿に比べたらよっぽど良心的やと思いますけどねー」
「急にくだけんなや」とローヒン。
店員の鑑ではなかった。
「あんたらかて、どうせそんなに持ってない金をこんな宿一つのために使うのもったいない思てるんちゃうの?」
ローヒンはギクリと肩を動かした。
「やっぱ図星かい」とジト目の店員。
「ローヒンさん……」と呆れ顔のウォーリッシュ。
「いや、だってしゃあないやん。金ないのはほんまやし……」と言い訳するローヒン。
ウォーリッシュは、はあ、とため息をつき、ある一つの提案をする。
「じゃあ、どないすんの? 野宿するか? この宿の屋根の上で」
「迷惑すぎるやろ」
こっちもこっちで大概失礼な奴である。ローヒンはカウンターに両手をついて頭を下げる。
「なあ、頼むわー。オレら今日はすごい疲れてるんや。一日だけでええから」
「怪我の方はええんかいな」と女店員。
「もちろんそれもや、とにかく頼みますわ」と頭を下げ続けるローヒン。
「ふーん、じゃあ聞くけどあんたら一万ゴールド持ってんの?」
「いや、持ってるわけないやろ」と頭を上げるローヒン。
「そうやんね、それじゃあ」
女店員は頬杖をつくのをやめ、姿勢を正してニコリと笑顔になる。
「お帰りくださいませ!」
今日は寝られそうにない。
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