そんな簡単にいくわけありませんね

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「実はな、この町に貝殻泥棒が出没するんじゃ」 「貝殻泥棒?」  聞いたこともない泥棒である。 「ふむ。その名のとおり、貝殻ばかり盗む不届き者じゃ」 「貝殻なんて盗んでどないすんねん。貝ならまだ食えるからわかるけど、価値あんのかいな」  ウォーリッシュの言葉に町長が怒った。 「こりゃおぬし、貝殻をばかにするでない! 貝殻はこの町の潤いじゃぞ!! 貝殻があるからこそ、この町の産業は成り立ってるというものじゃぞ!!!」  町長のあまりの入れ込みぶりにちょっと引くウォーリッシュ。 「え、えらい貝殻に入れ込んでんねんな……」 「でも実際そうなんよ。それに昔はどの地域でも貝殻で商品売買なんかもしてた時期があったそうやからね」 「へー、貝殻の何がそんなにいいんやろな」  マッソンの言葉にますますわけがわからないという顔をするウォーリッシュ。  ローヒンはちょっと呆れた。 「あんた戦闘のことはめっちゃ詳しいのに、こういうのはからっきしあかんねんな。さすが洞窟育ちなだけあるわ」 「ボクが根っから洞窟育ちみたいな言い方せんといてや。一応町生まれ町育ちやで。ローヒンさんこそ、あんま驚かへんねんな」 「オレを誰や思てんねん。世界中のお金だけは、この『昔のお金、世界のお金』で勉強済みや」  ローヒンはボロボロの本を取り出した。 「そういうしょーもないもんを持ってるとこ、さすがは金好き勇者やわ。しかもめっちゃ読み込んでるやん」 「オレを、そんながめつい男みたいに言わんといてや」  ローヒンとウォーリッシュの会話を聞いていた町長が「オホン!!!」と、うるさく、わざとらしく咳き込んだ。 「説明がいちいち嫌みったらしいわい! ……話がそれたな。通行証を書く代わりに、ぜひともその貝殻泥棒を捕まえてほしいんじゃ」 「やっぱ、そないなことやろうと思ったわ……」  ローヒンはいつになったらキーングの元にたどり着けるんやろ、と思ったのと同時に、うまくいけば貝殻分けてもらえるやろか、と淡い期待を抱いた。
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