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鼻腔をくすぐる、金木犀の香り。夏の終わりの、秋の始まり。
遠い空に、傾いていく、太陽。
今日この日、ドレスを身に纏った、十五歳の少女が旅立つ。
棺の中、夕暮れ色。
「……誕生日、おめでとう、な。」
本当は、この言葉に返答を期待していた。
「……ありがとうね、夕。……とても、綺麗、よ。」
歯を食いしばって、無理やり笑顔を作った。
夕が最期に作ったものが、自身の名を冠したものだったのは。書きかけた『ありがとう』の言葉の意味は。
魂をかけた、感謝の言葉。
『産んでくれて、名前をくれて、育ててくれて、ありがとう。』
橙色の絵の具を垂らしたかのような、空の果て。そこへと煙は立ち上る。
― 杪夏暮の天際色 ―
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