杪夏暮の天際色

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 鼻腔をくすぐる、金木犀の香り。夏の終わりの、秋の始まり。  遠い空に、傾いていく、太陽。  今日この日、ドレスを身に纏った、歳の少女が旅立つ。  棺の中、夕暮れ色。 「……誕生日、おめでとう、な。」  本当は、この言葉に返答を期待していた。 「……ありがとうね、夕。……とても、綺麗、よ。」  歯を食いしばって、無理やり笑顔を作った。  夕が最期に作ったものが、自身の名を冠したものだったのは。書きかけた『ありがとう』の言葉の意味は。  魂をかけた、感謝の言葉。 『産んでくれて、名前をくれて、育ててくれて、ありがとう。』  橙色の絵の具を垂らしたかのような、空の果て。そこへと煙は立ち上る。      ― 杪夏(びょうか)(くれ)天際(てんさい)(しょく)
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