杪夏暮の天際色

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 あれだけうるさかった蝉はいつの間にやらなりを潜めていた。代わりに、りりり……と草影からする虫の声。あちらこちらから、示し合わせたかのように、交互に。  机に突っ伏したまま動くことのなくなった夕は、僅かに口角をあげ、笑っているように見えた。  頭の下にひかれた画用紙には、デザイン画。  タイトルは『夏の終わりの夕暮れ空』。  これを見つけた両親は、衝撃を受けた。  あくる日、夕に掛けた言葉を思い出す。 『夕、あのね。あなたが産まれた日はね、夏の終わり頃で、とっても綺麗な夕暮れ空だったの!』  タイトルの、その下に夕の名前。それから書きかけの言葉。 『ありがとぅ』  歪んだ、さいごの文字を、父親は指でなぞった。 「……ああ。よく、似てるよ。あの空と。」  トルソーに着せられた、橙色を基調としたマーメイドドレス。夕の遺したそれに、夕に、すがりついて泣きたかった。たが、今触れれば、溢れる涙で汚してしまいそうだった。
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