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試合が始まって藤井くんが得点を入れた。沸き立つ観客の波に乗って私もタオルを掲げて声援を送る。 先ほどバチバチと火花を散らしたユリちゃんも一緒になってガッツポーズをした。 「藤井選手すごい! かっこいい!」 「でしょ!」 ユリちゃんが褒めてくれるのでここぞとばかりに私はドヤ顔。藤井くんの活躍が嬉しくてたまらない。 一生懸命応援したせいか、試合終了後には喉もガラガラになっていた。 「あー、負けたぁ。でもすごく良い試合だった」 ユリちゃんがガックリしながらも大きな拍手をして選手たちを労っている。藤井くんのチームは勝利して、私はご機嫌にタオルを振りまくった。 本当に良い試合だった。 本当に格好良かった。 選手たちが四方へ挨拶をする。 藤井くんも私たちが座る方向に向けて手を挙げ、深々とお辞儀をした。 顔を上げた瞬間、藤井くんは人指し指を突き立て、こちらに向かって指を差す。 それはまるで私を差しているような、心なしか目も合っているような。 ドキンと心臓が高鳴る。 ……気のせい? 自意識過剰? ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――。 「え、ちょっとやだっ、なんかこっちに指差してません? 先輩っ、ねえっ!」 「う、うん。そ、そう?」 私がこの試合を見に行くことは藤井くんに伝えてない。それにコートから客席まで結構な距離がある。だから藤井くんが私を発見してなおかつ指まで差すなんて、ありえないと思っているのに。 思っているのに――。 「やーん、あんなの見せられたらファンになっちゃいますよねぇ!」 興奮したユリちゃんの声が耳に届くのにどこか遠くて。まわりの観客の声援だって耳をつんざくほどだったのに今はまったく聞こえない。 ウソ。 気づいた? 本当に? たまたま? 偶然じゃない? ただのパフォーマンスでしょ? どうしようもない焦燥感が体を震わせる。 私は藤井省吾選手のファンで、同級生で、それ以上でもそれ以下でもないと思っているのに。 そんなの嘘ばっかり、なんて、もう一人の自分がしゃしゃり出てくる。 あの日、封印した気持ち。 頭の片隅に追いやって、忘れたことにした気持ち。 まるで堤防が決壊したかのように溢れ出てきて、もうそればっかりしか考えられなくなった。 私は今でも藤井くんが好きだ。 好きって告白しなかったから……、忘れることができないから……、今でも彼を追いかけてしまう。藤井くんへの気持ちが不完全燃焼だから、未練がましく今でも彼を想っている。 こんなの、バカみたいって思うのに……。 もしかしたらっていう希望も捨てきれなくて……。 もし、もしもだけど……もう一度チャンスがあるなら、私は藤井くんに……。
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