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「どうしようユリちゃん。私、藤井くんが好き」 「先輩が推してるの、わかる気がします。なんか今日の試合で私も藤井選手のファンになりそうですもん。めっちゃかっこよかった!」 「だよね! めっちゃかっこよかったよね!」 もう、興奮冷めやらない。 好きな気持ちが溢れ出てきて行き場を失い、叫びたくなる。選手名入りタオルを掲げるだけじゃ物足りない。 関係が崩れるのが怖くて諦めたはずなのに、こんなにも未練がましく藤井くんを好きだと考えるなんてどうかしてる。それに、高校を卒業してからもう十年も経とうとしているのに。 ねえ、私は諦めたんじゃなかったの? 何度も何度も自問自答を繰り返す。 「……ねえ、ユリちゃん。藤井選手って彼女いると思う?」 「何ですか、突然。うーん、あれだけかっこいいし、モテるでしょうね。地方局の女子アナとか?」 「……だよね。私なんかじゃ敵わないよね」 「えっ? ちょっと待って先輩。本気で狙ってます?」 「狙うっていうか、諦めきれないっていうか……。藤井くんは昔からモテてたんだよね」 そうだよ、思い起こせば高校の卒業式の日、たくさんの女子に囲まれていた藤井くん。帰る頃には学ランのボタンが全部なくなっていたっけ。 「なになに~? 話が見えないんですけど。先輩、もしかして藤井選手と知り合いだったりします? なーんて――」 「うん、そうなのよ。実はね」 潔く白状したら、ユリちゃんは目をまん丸にさせて椅子から転げ落ちた。 「嘘でしょ?」 「本当だよ。高校の同級生なんだ」 「えー! なんでそれを早く言ってくれないんですか! じゃあさっきのって、やっぱり先輩に向かって指差してたってことじゃ……」 ユリちゃんは両手で口を覆いながらキラキラした眼差しで前のめりになる。 「そうだったら嬉しいけど、そんなわけないじゃん。だって私、今日ここに来ること藤井くんに伝えてないし」 「後で連絡しましょうよ」 「なんで」 「なんでって、先輩って藤井選手のこと好きなんですよね?」 ずずいと迫られて私はぐっと押し黙る。 今まで散々好きだと騒いでいたのだから「好き」と口にするだけなのに、なぜだか緊張して喉が詰まった。 「……う、あ……好き……だよ?」 たっぷりと変な間を作りながら答えると、「もー、素直じゃないなぁ」とユリちゃんに笑われてしまった。 しょうがないじゃない。 だってまさかこんなにも藤井くんへの想いが溢れてくるなんて思いもしなかったんだもの。 藤井くんがあんなことするから……。 「先輩~、恋する乙女みたいな表情になってますよ」 「なっ、ちょっとやめてよユリちゃん。そんなんじゃないし」 「今日絶対連絡してくださいね! で、ついでに渡会選手紹介してってお願いしといてください。なんなら合コンでも!」 「……なんて現金な子なの、ユリちゃん」 「私、チャンスは逃したくないタイプなので」 ニカッと強気に笑うユリちゃんは図々しいのにどこか潔くて、なんだかキラキラと眩しく見えた。 ――チャンスは逃したくない 本当にその通りだと思う。 私はチャンスを逃してしまった。だけどもし、もう一度やり直せるなら、もう一度チャンスがもらえるなら、今度こそぶつかってみてもいいのだろうか。 当たって砕けるかもしれないけど、こんな十年も引きずる恋をしているくらいなら、断ち切るためにも伝えた方がいいのかもしれない。 藤井くんが好き、って。
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