納豆。のち、僕の小さな海

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「お帰り。お腹空いたでしょ」  その日のお母さんはいつもより嬉しそうだった。時刻はもう9時を回っていたのに、テーブルには料理二人分、手がつけられないまま置いてあった。 「お土産」  LENOさんからもらった茶碗と、お母さんに買った茶碗をテーブルに出した。 「きれい。......沖縄の海みたい」  お母さんは手の中で茶碗を回して、釉薬の出す青を楽しんでいた。それ以上話すと、鼻の奥が痛くなって喋ることができなかった。 「せっかくだから、今日からこれで食べようか」  お母さんが茶碗を洗い、ご飯をよそった。僕は冷蔵庫を開けて、納豆を取り出す。 ーー親父も、いつも納豆に何か混ぜて食ってたよ。海人見てると思い出す。  ふと、さっきの兄貴の言葉を思い出した。 「今日は何納豆にする?」  お母さんの言葉に、僕は冷蔵庫を物色するふりをした。
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