知性の雫

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 女の店に着くと早速店内を案内してくれた。朗読者ごとに部屋が分かれていて、客は部屋を選んで次の朗読を待つ。三十分朗読すると十分休憩。昼休みは一時間となっている。通常は朗読者が本を選ぶのだが、客が少数の場合、客のリクエストに応じる場合もある。特に予約が無い場合は貸切にして連続して聞くことも可能である。女に予約の有無を尋ねると、無いと言う。男は喜んで貸切にしてもらった。  読んでもらいたい本はあるかと尋ねられ、男は勉強が嫌いで国語の教科書も満足に読めないと告白した。「それでは国語の教科書を朗読しましょう」と女は答え、小学一年から高校三年までの国語の教科書を二冊ずつ持ってきた。「何年生の教科書から読みましょうか」と尋ねられ、「小学一年から」と男は即答した。  女から小学一年の教科書を受け取り、女の朗読を聞きながら眺めた。あんなに嫌いだった勉強が、こんなにも楽しい。昼休みを入れながら十七時まで至福の時を過ごした。  翌日の貸切を予約し、夕食を共にして、銀座のクラブに行った。 「連日のご来店ありがとうございます」とママに迎えられ、三人で再会の乾杯をした。
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