知性の雫

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 男が銀座のクラブで女に会ったのは月曜の夜であった。火曜から女の店で朗読を聞くようになり四日連続、もう金曜である。 「今週は皆勤賞ですね」とママは微笑んで迎える。今宵も三人で乾杯して皆勤の宴が始まる。  土日に逢えない分、たっぷり女の声を聞いておこうと男は耳を傾ける。心地よい声に自然と男の身体が揺らぐ。 「また来週」と女とママに挨拶して男は帰っていく。土日は別というのが男の遊び方である。  月曜日に男が出勤すると、九時十分に社長室に行くようメモが置いてあった。  連日の銀座通いを怒られるのかと社長室に行くと、社長の隣りの席に女が座っている。驚く男に父である社長は「これからは会社の一室で朗読を続けるといい」と言った。  女の店との共同研究をするために開発部の一室で測定するのだという。教材は国語の教科書で、おさらいを兼ねて小学一年から始めることになった。  女の声と男の脳波が記録されていく。
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