強い光

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強い光

「うちの子が一番可愛い」 「……渉さん、さっきから真顔で言うのやめて、確かに可愛いですけど」 よく晴れた秋空。 今日は運動会で、幸成は今うちわを揺らして踊っている。 狭い園庭に観覧する親が皆立っていて、とても賑やかだ。 「しっかり動画撮って下さいね、お母さま凄く残念がってたから」 「ええ、来客を断ろうかと真剣に悩んでましたからね」 あれから、月に一度は必ず神代は幸成を連れて寺を訪れている。 麻子も神代の兄も父親もそれを心待ちにして、幸成の為のお菓子を用意して待ってくれるのだ。 麻子は滅多に背中にを背負わなくなった。 神代に祓わせる事が嫌なのだろうし、それ以上に最近は幸成が言うのだ。 ばぁば、赤に触ったらだめよー?と。 「この後に、結構色々挟んでからかけっこですね……柚さん、一度車に戻って座って来て……写真は僕が撮っておくから」 「えー、大丈夫ですよ?」 ちょっと不満そうな柚に、神代がいいえと微笑む。 「日差しも強いし、今が一番大切な時でしょう?……ほら、大人しく座って来て」 柚のお腹には、来月安定期に入る幸成の妹か弟がいる。 神代の心配事は今や柚のお腹に集中し、これでもかと言うくらい気遣われて、柚は少し窮屈なくらいだ。 「はーい……写真、いっぱい撮っててくださいよ?」 「もちろん、柚さんのお母さまにも送らなきゃいけません、帰って厳選するのが楽しみですね」 じゃあ行ってきますと、踵を返した柚の腕を神代が引き止めた。 「ん?」 と振り返って見上げた柚の耳元、ざわめきや歓声を避けるように身をかがめた神代が囁いた。 「この後の退場動画を撮ったら、静止画のカメラを残してこっちを車に届けますから、待ってて」 不自由に行動を制限してごめんねと言う瞳が、甘く笑うのを柚はうふふと見上げた。 「ちゃんとノックして言ってくださいよ?お届け物でーすって」 あの日、足元を掬われながらも微笑んで。 疲れきった男に救いの女神が訪れた。 護りながら大切に愛した女性は、やがて恋人になり、妻になり、母になってくれたけれど。 今思えば常に、男の心を護ってくれた。 お届けものですと届けてくれたのは、彼が持つ力よりずっと尊い光だった。 人は誰でも心を届ける配達員になれるのだ。 心をノックしたら、一瞬で笑顔のチェックをした後で……ちゃんと背筋をのばして差し出せばいい。 あなたに大切なものを届けに来たのだと。 あなたを助けて、共に進みたいんだと。 お届け物です!【完】
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