激昂

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一日大切につけていた。 力仕事だけれど、トラックの縁に当てたりしないように、濡らさないように。 (せっかくプレゼントしてくれたのに……) 横を何かが通り過ぎたタイミングで切れた数珠。 確かにその数珠が柚を庇ってくれたのだけれど、それよりも壊れてしまった事の方がショックだった。 玄関を開ければ神代が居る、その安心感もあっただろう。 柚は神代に助けを求めるより先に身を屈めた。 散らばった針水晶に指を伸ばす為だ。 ___ドシン。 後ろから駆けてきた人間が急に背中に飛び乗ったような感触だった。 「、うっ」 呻いてよろめく。 そこでやっと柚は順番を間違えた事に気がついた。 先に玄関を開けて、神代に助けを求めるべきだった。 重い、すごく。 大人を一人背負っているみたいだった。 それも、自分より重い人間を。 一体何が起こってるんだろう。 昨日も、今日も、どうして自分にこんな大きなものが寄ってくるの。 柚はよろめきながら身体を起こした。 大丈夫、玄関を開けて声を出せば神代が来てくれる。 足音が重い。 気持ち悪い。 やっとの事で数段の階段をあがった時だった。 玄関が開いた。 「渉さん、今_」 「……根こそぎ消すぞ、触るな!」 決して大きな声ではなかった。 それでも、柚は身体を固くして息を止めていた。 腹の底から吐き出した様な重くて鋭利な声だった。 神代の目はキツく柚の背後を睨み。 そのまま柚を胸に引き寄せた。 「っ、」 「*******」 知らない言葉だった。 今度はハッキリ聞き取れたのに、それを何一つ理解出来なかった。 「*******、*******、*********」 音が聞こえた。 唸るような、振動するような空気の揺れ。 ず、と肩から何か離れる感触。 ぎゅっと今までで一番強い力で自分を抱く神代の腕。 ホッと息を吐いたら神代が身体を返すようにして、柚を玄関の内側に引き入れて扉を閉じた。 最初に感じたのは、温めてくれていた部屋の温度。 次に甘い香り。 今朝神代が今晩はシチューだと言っていた。 神代が柚を抱いたまま、自分の背中を玄関につけた。 初めて感じる神代からの安堵の気配。 ふぅ、と耳元で吐かれた吐息。 「……お腹のすき具合はどうですか、柚さん」 「……え?」 神代の手が抱いていた背中を伝って上がり、柚の頬に触れて上向かされた。 「……先に夕食を食べていてください、僕は少し出かけてきます」 声も微笑みもいつもと同じ。 同じなのに、その目は燃えているみたいだ。 ……神代が怒っている。
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