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「そうだ、彼のもとへお嫁へ行こうと思います」
と姉は言い出し、あっさり結婚した。
「そうだ、俺も彼のもとへお婿へ行こうと思います」
と俺は言い出し、彼のもとへとやって来た。
唖然とした表情を浮かべる彼の前で俺は言った。
「お嫁に行きたいがあるなら、お婿に行きたい。そう願って何が悪い!」
「いいえ。とても悪くないと思います」
彼はそうはっきりと言ってくれた。ふう。ホント、いい男。
「つまり、OK?」
俺は期待して彼の次の返事を待った。
「一つ疑問なんですが……」
彼は口ごもった。
「なんだよ? はっきりしろよ」
「いや、あのさ、この場合、僕と君が結婚するとして……」
「うんうん」
彼の口から「僕と君が結婚するとして」って言葉が出てきた。仮定であっても半分はOKをもらったようなものだ。俺の中の彼との結婚に対する期待度は一気に高まった。
「君がお婿さんで、じゃあ僕がお嫁さんの立場になるってことかい?」
「……あれ?」
そこはどうなるんだろう。
男と男が結婚する場合、婿と嫁の立場に分かれるのか?
わからんが。いや、そんなのは何だかおかしいぞ。
いやいや、そもそも彼も俺もどっちも今の性別に対する悩みは持ってはいなかった。
つまり、
「ごめん。僕、お嫁さんってものになるつもりはないんだ」
こうなる。
彼はそう言って俺はフられた。
「くっくっく……」
物陰から笑い声が聞こえた。
「そこかっ!」
俺は上履きを声がした方に投げつけた。スリッパがパカーンとそいつの顔に見事当たった。
「いったーい。何するよ、お兄ちゃん」
我が妹はスリッパの当たったおでこを撫でながら姿を現した。
「あ、ごめん。そんな見事に命中するとは思わなかったぞ。大丈夫か?」
「人に物を投げつけるな。目に当たったら大変だろ」
俺は妹に土下座で謝った。
「まったくすまん」
「面白い場面を見せてくれたので許す」
人がフられた場面なんて別に面白くもなんともないだろうと俺は心の中でツッコミを入れた。
「まあいいや。フッ……。傷心の兄は去る。じゃあな」
「まあまあ。この妹が慰めてあげる」
これは不気味だと感じる提案をしてくる我が妹。
「いいのよ。どこかお婿さんに行きたかったのなら、私のところを選んでも……」
こやつの目がマジ。これは絶対にアブノーマル。
「そういう世界へ行きたくはないんだが……」
「行け! 来いってんだよ!」
「ひいいっ」
この場から逃げ出したい。そうだ!
「あっ! そっち見ろ! さっき体育のプールの時間にお兄ちゃんの水着の写真をスマホで撮ってたC子さんが歩いてる!」
「なンだって!? 待ちなさいってくださいませ、浅田先輩!」
妹はC子さんに向かって突進していった。
「ひゃああっ? 突然何なの!?」
ごめん、C子さん。
俺はその場からくるりと背を向けて駆け出した。
「どこに行けばいい?」
行きたい場面がパッパッと頭に浮かぶ。
「ふはははっ!」
彼にフられて傷心の俺だったが、
「選べる世界は一つじゃない!」
次にどこの世界に行きたいか悩むほどある。
その事実に俺はだんだん嬉しくなってきた。
そうだ。もう一度、彼のもとへ行こう。彼なくして俺は前には進めないのだから。
「だからよ、諦められるかよ!」
「うわああ!? また来たよ!」
「待ってよ、お兄ちゃん!」
「こらっ! 誰があんたの水着姿を盗撮したって!?」
前も後ろもちょっとアレだったが、前を向いていれば世界は明るい。
明るい世界には明るいことが待っているのだから。
<終わり>
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