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完璧男子の溜息の火種
この世界は、理不尽と不平等でできている。小学生の時に発見した真理は、高校生になって、より強固になった。
——夏休みを終えた、日向高校一年三組の生徒達の肌は、ほんのりと小麦色になっている。
私、月嶋日景は、バスケットボールをゴールに放り投げた。ふらふらと情けなく飛んだボールは、リングにゴツンとぶつかって、床に落ちる。分かりきっていた結果だ。体育の授業でもなければ、運動音痴の私が、バスケットボールを持つことはない。
私は、ゴールの下に転がっているボールを手にとった。私の失態を見ていた人は、誰もいない。
隣のコートから、わっと歓声が上がった。
「蒼井! またスリーポイントかよ!」
男子が試合をしている。シュートの練習をするはずの女の子達も、観戦に夢中だ。
コートの真ん中で、熱と色の籠った声を、独り占めにしている男の子がいる。身体の半分くらいまである長い脚。彫りが深くて端整な顔。
蒼井駿くんは、完璧な男の子だ。
チームの男の子とハイタッチをした蒼井くんは、わずかに口角を上げる。その姿に、女の子達は、練習をそっちのけで虜になっている。
そんな蒼井くんから、私は逃げる。隣のコートから顔をそむけて、ポイっとボールを放り投げる。弱々しいボールは、リングに当たりすらしないで、ポトンと落ちた。
体育の授業が終わると、皆で後片付けを始める。誰がどれをしまうとは決まっていない。
「蒼井くーん! これ、手伝ってー!」
得点ボードの近くにいる女の子達が、蒼井くんを手招きしている。車輪が付いているから、一人でも運べるはずのものだ。
それでも、文句も言わずに手を貸してあげるのが、蒼井くんだ。ボードを軽々と運ぶ蒼井くんに、女の子達は目を輝かせている。
そんな女の子達を、私は、心の底から尊敬している。
自分に自信がなかったら、アプローチなんてできないから。その自信は、努力して自分磨きをしているからこそ生まれるものだから。
漫画のヒロインだって、そうだ。
明らかに自分に好意がある男の子に対して「好きにしていいよ」なんてストレートに言えちゃうの、羨ましい。
鈍感を装っているとしか思えないのに、そうだと周りを信じ込ませるほどの魅力があるってことだから。
現実世界でも、たとえ漫画の世界の住人だとしても、私は凡庸な脇役だ。
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