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雨に打たれながら「子供を生ませて」とすがる彼に孕ませた「それ」①
祭壇の花を活けていると、掃除をする老翁、杉山さんが「聞いたかあ?牧師さん」と声をかけたきた。
「最近、ここらで雨が降ると『強い子供を生ませて』って野郎が、男にすがりついてくんだってよ。
妊婦用のワンピースを着て、雨でびしょ濡れになってさ」
花を生ける手を止めないながら「なんと罪深い・・・」と嘆かわしいとばかり呟く。
正直、教会で話すのは不謹慎な内容に思えたが、杉山さんは熱心に通う信者だし、献身的に手伝いもしてくれる。
かなり年上で近所の顔利だから「神の御前でそんな」と諭すことはできず。
「まあ、罰当たりなことしてるもんだが、これが迷える子羊なのか、この世でないものなのか、はっきりとしない。
というのも、その男に口づけされると抗えないからだ。
そりゃあ、ほとんどのやつは拒否するだろうし、たとえ同性とやれるやつも『強い子供を生ませて』って泣きついてきたら、気色わるがって相手にしないだろう。
ほとんどが逃げたり、突き放すらしいが、執念深く男はまとわりついて、口づけをする。
そしたら、とんでもなく血が沸騰するように興奮して、我を失い、男を貪るように犯してしまう。
男が求めるまま、たっぷり子種を与えてな」
教会を受け継ぐとき、お世話になった杉山さんは恩人だし、その面倒見のよさにいつも助けられているが、場所を弁えず、下世話な話をするのが難点。
背をむけて、眉間の皺を見られにようにしつつ、どう話題を変えようかと考えているうちにも「ほんとうに恐いのは、それからだ」とおしゃべりは止まらない。
「熱に浮かされるように男を犯してしまったやつは、事後、その記憶が曖昧になって、ほんとうに現実だったのかと疑う。
しばらくもすりゃあ、忘れたくもあって、悪夢として片づけようとするが、矢先に雨が降るんだよ。
で、悪夢を見た場所に男が現われて、膨らんだ腹を撫でながら『順調に育っているよ』って笑顔で報告する。
雨が降るたびに、大きくなった腹を見せに現われるものの、もう生まれそうってくらいの大きさになったら、ぱったり顔を見せなくなるんだと。
今まで男に魅了されて、孕んじまった野郎どものなかで、生まれた子供を見たやつはいないって話だ」
見も知らない男を惑わして、自分を抱かせることなんて、まずもって、できるはずがない。
そのあと徐徐に膨らんでいく腹を見せにくるなんて、いたずらの域を超えている。
「たしかに、その男は生きていないのかもしれない」と思ったが、このまま話に乗っかると、もっと杉山さんが饒舌になりそうだったから「どうか神の御加護を」と胸に指で十字を。
ただ、一つ、どうしても気になり「どうして子供でも『強い』子供なのでしょう」と聞くも、話すだけ話してすっきりしたのか「さあ」とそっけない。
教会を手伝いに、ほかの信者がきたのに「おー信子さん!久しぶり―!」と浮き浮きと跳んでいき、不毛なおしゃべりは終了。
十字架を前にして、ふさわしくない内容だったなれど、記憶にこびりついてしまい。
なんとなく雨の日には外出せず、外をうろつく男を思い浮かべながら、告解室にこもっていたところ。
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