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病院の地下迷宮をさ迷う犬人間たちに蹂躙をされて俺は目覚める④
目が覚めたのは病院。
ベッドのそばにいた母が真っ赤な目をしつつ、教えてくれたことには「廃屋の地下で、あなたと友だちが皆、倒れていたのよ・・・」と。
「お医者さんがいうには、あそこは精神病を扱う病院だったから、危ない薬品が多くあったのだろうって。
あなたたちが、薬の瓶を割ったことで、気化したのを吸って、意識を失くしたんじゃないかって、いっていた」
「検査をしたけど、体に異常はないって」と母は笑いかけつつ、わずかに頬を引きつらせているような。
そのあと、どこか歯切れがわるかったし、なにも質問してこないあたり、単に地下に倒れていたのを発見されたのではないのだろうと察し。
俺の予想では、全員が乱交したような跡が見られたのだと思う。
犬人間に犯されている悪夢を見みながら、ホモを含め、それぞれが犯して犯されていたのではないか。
薬で失神して、悪夢にうなされていたという割には、きちんと腰は痛いし、尻に違和感があるし、全身が筋肉痛だし。
といって真相をたしかめる意気地はなく「そっか」で流そうとしたものを、はっとして「ねえ、母さん」と頼みごとを。
「このことは、できるだけお父さんには内緒にしてくれないかな・・・」
目を見開いた母は、即答してくれず。
気まずそうに視線を落としてから、おそるおそる向きなおり告げたことには。
「お父さんが一年前に亡くなったの、覚えていないの?」
後日、カウンセリングを受けたとき、まずこう告げられた。
「はじめる前に、いっておきたいことがあるんだ。
きみのお父さんは自殺をしたけど、その理由ははっきりしていない。
遺書らしいものが見つからなかったからね。
それに、お父さんは仕事で大失態をして閑職に追われているという状況にもあった。
だから、きみが自分に原因があると思いこむのはやめたほうだいい」
一応、うなずいたことで、カウンセリング開始。
父が死んだあとの学校生活について主に話したのだが、最後までうなずいて聞いていた先生はすこし間をおいて「じつはね・・・」ともったいぶったように。
「ホモの保田くんは実在しないのだよ。
きみしか、見えない男の子だったんだ」
衝撃の事実なれど、さほど驚かず。
前から、どこか引っかかっていたし。
クラスの連中はイジメを傍観するというより、触らぬ神に祟りなしとばかりに無視を決めこみ、たまに「かわいそうな子」を見るような視線をくれていたから。
学校が俺の奇行を大目に見ていたのは、身内が自殺して間もなくだったし、父が政治家だったからか。
ホモ撲滅隊の集まりのときは、ほとんど保田と口を利かなかったので、変に思われなかったのだろう。
父が死に、すこしして保田という格好のターゲットを見つけたから、そういうことなのかもしれない。
カウンセラーが長々と説明するのを聞くまでもなく納得して、遠い目を。
その反応をどう受けとったのか「念を押していうよ」と前のめりに熱心に語りかける先生。
「お父さんが死んだのは、きみのせいではない。
たとえ、お父さんがきみを責めたり罵ったのだとしても、その意見が正しいわけじゃないんだよ。
まわりによほどの迷惑をかけたり、犯罪をしない限りは、きみが生きたいように生きればいいんだ」
「そうでしょうか」と呟いたのが聞こえなかったようで、ご満悦そうにうなずく。
「カウンセラーのくせに、人の心を読めないんだな」としらけつつも「ありがとうございます」と深深と頭を下げて退室。
病室のベッドにもどると、目を瞑って、ここ一年封印していた記憶を掘りおこす。
葬式が済んでしばらくしてから、学習机の引きだしの中に遺書を見つけた。
それには、父が人一倍ホモに拒絶的だった理由が。
なんと父は若いころ、男に強姦されたらしい。
そのトラウマを抱えながらも結婚して、息子をもうけ「普通の幸せをてにいれるんだ!」と奮起し、政治家として多様性が世の中に蔓延するのを食いとめようとした。
そして、息子たる俺を同性愛にさせまいと徹底教育したはずが、ホモと発覚して絶望し、また恐怖に苛まれたという。
「トラウマと分かっていても息子に見られるだけで、犯されるような錯覚をして耐えられない」と自死をしたとのこと。
俺が自覚したのは中学二年くらいのとき。
家庭が異常に保守的だったから、もちろん、ひた隠していたが、父が死ぬ直前、覚えのあるできごとが。
全年齢向けながら、あきらかにホモ向けの動画をタブレットで見ていて、寝落ち。
長時間の動画で、起きたときも流れていたから、たまたま部屋にはいった父が目撃してしまったのだと思う。
その翌朝に、書斎で首を吊ったから。
あらためて回想したところで、犬人間に犯されていたときほど罪悪感を覚えず。
なんなら「父の目を気にせずホモとして生きていける」とせいせいしているような。
あのとき赤子のように泣いて謝罪しまくっていたくせに、どういった心境の変化なのか。
我ながら不可解なれど、さっきのカウンセリングで去り際、先生にいわれた一言が思い起こされて。
「ちなみに保田は、きみの名前だよ」
顔にモザイクのかかった父に首を絞められ殺されたのは、俺だったのかもしれない。
それから二年が経ち、俺はまた、あの忌まわしき精神病棟を訪れている。
前と同じようにホモ撲滅を望む連中を引きつれて。
ただし、目的はホモをいたぶることではない。
「もっとホモが増えれば、数で勝れば、無理解な男どもは口をつぐむだろう」と思ってのこと。
たとえ父のように彼らが追いつめられて自死に走ろうが知ったことではない。
「間接的に殺せるなら本望」とほくそ笑みつつ「あれ?ここに隠し扉が?」とすっとぼけて、はしゃぐ愚昧な連中を犬人間の住処へと誘った。
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