雨に打たれながら「子供を生ませて」とすがる彼に孕ませた「それ」③

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雨に打たれながら「子供を生ませて」とすがる彼に孕ませた「それ」③

最終段階の体勢をとるのに焦って「待て!聞いてくれ!ほんとうに俺には子供を生む資格がないんだ!」とありったけの声を張りあげる。 目を細めた男は、尻に当てたまま腰を止めて、一応、耳を貸してくれるよう。 強制的に欲情させられた状態でのおあずけは辛かったが、歯軋りをしつつ、胸から手を遠ざけ「俺も大切な人がいたし、子供ができたんだよ・・・」と話しだす。 「狂犬ともてはやされただけあって、かつての俺は高笑いをしながら血しぶきを浴びたり、逆上するまま、死体をさらに痛めつける真似をした。 顔見知りでも親しい相手でも躊躇せず、罪悪感も悲しみも湧かないから、俺は人間じゃないのかもと思ったよ。 でも、堅気の彼女は、そんな俺を恐れずに『人を暴行して殺すのが楽しいわけでもないのでしょ、だったら大丈夫』と受けいれてくれた。 ・・・組の親父はいい顔をしなかったとはいえ、交際して結婚して。 しばらくして妊娠が分かって、そのときが幸せの絶頂だったよ。 もうすこしで子供が生まれるというとき、親父に呼びだされたんだ。 事務所には手を縛られ、猿ぐつわを噛まされた妻が泣いてた。 親父がいうには『この女は寅司組のスパイだ』と。 このごろ、次次と薬の販売ルートが横どりされているのは、俺から聞いた情報を妻が流したせいだってな。 それを聞いて俺は怒り狂って、妻の腹を蹴りつけた。 猿ぐつわをした妻が苦悶して呻いて、どれだけ目で助けを求めようが、丸い腹をつぶす勢いで容赦なく手加減なしに。 失神しても蹴りつけて、親父に止められたときには、床に血が散らばっていたよ。 胎児は死んだろうし、親父が『寅司組に見せしめてやれ』って連れていかせた妻も殺されただろう・・・」 男は無感動に見おろしながら口を挟まず。 一区切りついたところで、口を開こうとしてのに「ち、ちがうんだ!」と声を裏返して、情けない叫びを。 「俺は、お、俺は親父が嘘をついているんじゃないかって、初めから疑っていた! 俺の結婚を祝福しなかったし、懐妊の報告にも、渋い顔をしていたからな! それに妻と交際しだしてから、前ほど過激な暴力や惨い殺人をしなくなったのも、気に食わなかったのだろう! たぶん目障りな妻を排除して、見境なく暴れる狂犬にもどってほしかったんだと思う! といって、確信は持てなかった! たしかに、すっかり油断していた俺は、重要な情報を妻には教えていたし、現実、その事案がことごとく、うまくいかなかったから! 妻が裏切ったにしろ、ないにしろ、証拠がなかったし、その時点ではっきりしなかったというのに、俺は迷わず胎児を蹴り殺した! 分かっていたんだよ! 親父が俺を試しているということは! そのうち足抜けをして、堅気の社会で妻と子供と歩んでいきたいと、じつは考えていた! そんな心変わりを疑った親父が、組をとるか妻をとるか選択を迫ったんだよ! 妻をとったら、あのとき妻と子供を庇っていたら、三人とも排除されたにちがいない!」 さすがに男は蔑むように見て「ああ」とため息。 「親父さんに妻と子供を殺されるくらいなら『自分の手で』って思ったと?」 つい首肯しそうになり「いや・・・」と肩を揺らして自嘲。 「初めはそう思いこもうとしたが、今、俺は生きている。 胎児を殺しておいて、のうのうと牧師をして過ごしているのは、結局、生きたいからだろう。 ・・・俺は妻や子供のために死のうとはしなかった。 生きるために、妻も子供も殺すのをためらわない、救いようのない外道なんだよ・・・」 いくら強い息子がほしいとはいえ、鬼も真っ青な外道極まる血を、自分の子に継がせたくはないだろう。 との見こみは大外れ。 無表情でいたのが、にわかに「すばらしい!」と高々と口角をあげ、勢いよく腰を落とした。 ずっと寸止めされていたのが、一気に飲みこまれ、イきそうになったのを歯噛み。 「や、やめ、ろお!ど、してええ!」と顔をひしゃげて叫ぶも「ふうああ、ほんと、分かって、ない、おう、うう!」と意気揚々と腰を上下させて、舌なめずり。 「もし、お腹の子を、蹴り殺さないと、自分が、殺される、場面でえ、俺の子にはあ、ちゅうちょ、してほし、ない・・・! 迷いなくう、胎児を殺してえ、生き延びる強さ、欲しいいい!」 「あなた、そっくりの、子供、欲し、ああう、んあああ!」と甲高く鳴くたび絞めつけてくるのに、全身全霊で耐える。 強制的な欲情させらた体は最高潮に高ぶり、どうにか射精を堪えながらも、目のまえで揺れる白い乳に、つい手を伸ばしてしまい。 胸を揉まれて「子供欲しい欲しい」と薄笑いを浮かべて腰をふる、狂気的で官能的な光景に飲まれそうになりつつ、まだ説得を諦めず。 「お、お前を・・・殺してでも、子供には、生きてほし、思うのか!」 直後ににんまりしたのを見て後悔。 「子供のためなら、子供に自分は殺されてもかまいやしない」と心底、思うなら、もう説得しようがない。 だったら、俺が注ぎこむまえに、腰をふれないほど体力を消耗させないと。 相手が生きているのか死んでいるのか分からない存在だが、やるしかない。 究極に強い子を欲しがる男と、胎児を殺して生き延びた俺との間で生まれるのは、この世にただならぬ恐怖と混沌をもたらす、きっと怪物だろうから。 腰を動かすのは危ないので、より早く強く胸を揉み、乳首をつねって引っぱる。 そのたびに「おおおふう!いい、いひい、いいいいん!」と感電したように痙攣してメスイキしまくり。 思惑どおり、そのうち扇動的に腰をふらなくなり、突きあげにあひあひと弱弱しく震えて呻くように。 ついには上体を倒し、俺の胸に巨乳を乗せて、息も絶え絶えに囁いたことには。 「ふふ、罪悪感がなければ、償いをする気もない、くせに・・・牧師の格好して、ばかみたい・・・」 ずっと俺の非情な強さを絶賛していたのが、急に冒涜して舐めた口を。 挑発だと分かりきってはいたが、あまりに図星だったから。 まんまと逆上して、理性は木っ端みじん。 腰をつかみ、深く爪を食いこませると、遮二無二、突きあげを。 かつて狂犬として暴れたように、半ば意識をとばしたまま、底知れぬ激情に衝き動かされるまま、間髪いれない腰の強打の連続。 そりゃあ男は嬉嬉として背中を反らし、胸を跳ねながら「あああ、いっぱ、いっぱあい、注いでえええ・・・!」と高らかに笑う。 望んで騎乗位で犯される、ふたなりの男は、神にとっては「なんと救いがたい」と嘆かれるような邪悪な存在だろう。 が、見あげる俺の目に映る、その妖艶さは毒々しくありながらも、底知れず魅惑的で。 牧師の俺にして悪魔に魂を売ったが如く求められるまま、無我夢中で突きあげ 食らわして精液をぶっ放し、腹の上で狂喜乱舞するように男を悶えさせてしまい。 「ああ、ああ、おおおおん!まだ、まだあ、足りなあ!残虐でえ、強い、精子、もっと、ちょおおだい!んくうあああ!胎児を、殺したあ、あなたの、精子でえ、俺のお腹、ぱんぱんにい、んあ、あぐう、ひぎあああ!」 男の挑発に乗っかり、腰の強打をはじめてからの記憶はひどく曖昧。 際限ないように注ぎこみ、その時点で徐徐に男の腹が膨れていったような。 はっきりと意識を取りもどしたときには雨がやんでいて、教会内のどこにも男は見当たらず。 とはいえ夢ではなかったようで、下半身は目も当てられない惨状。 祭壇の十字架のまえでは、なおのこと居たたまれずに、教会からそそくさと退散。 「お腹の子を殺しておいて、どの面下げて牧師をやっているのか」と自分を責めながらも厚顔無恥に生きつづける俺でも、今すぐ舌を噛みきりたくなったもので。 ただ自殺する体力はなく、ベッドに倒れて熟睡。 「おおい!牧師さん!寝坊なんて珍しいなあ!」と杉山さんに叩き起こされ、窓から燦燦と陽光がそそぐのを見たら、どん底にあった気分が、すこしは上向きに。 昨夜の大雨があっての爽やかな晴天。 杉山さんに尻を叩かれながら、教会の業務をこなしているうちに「悪夢にうなされながら、自慰でもしたのか・・・?」とさらに記憶はぼやけていった。 そのあとも快晴の日がつづき、長く男と再会もしなかったため、ふたなりの彼の姦淫も、牧師失格な俺の罪深き蛮行も「すべて夢だったのだ」とぼけた爺さんのように思いこむようになり、退屈で平穏な日常を送っていたのだが。 一週間ぶりの雨。 教会で子供に配るお菓子が足りずに、コンビニに買だしへ。 膨れあがった袋を持ち帰路についたところ、まっすぐな道の向こうから人が歩いてきた。 そう、妊婦用のワンピースを着たあの男。 意外にも「悪夢と片づけたはずが・・・」と愕然としたり、動揺することはなく、男のほうも大袈裟に反応することなく、ゆっくりお互い歩み寄る。 声が届く距離になると、彼は丸い腹を撫でて「ほら、もう生まれそうなんですよ」と微笑。 腹のなかで暴れているのか、膨らみの表面が波を打ってやまない。 気色わるくて、思わず自分の腹をさすり、と見せかけて懐から包丁を取りだすと、波打つ腹に突き刺そうと。 その瞬間、腹を突き破って巨大な手が。 血濡れた手は俺をつかむと、その勢いのまま跳びだして全貌を露わに。 腕と手がある以外は、肌がただれた肉片。 家の二階くらいの背丈をし、肉がたるんだり、へこんだりするところが口鼻目らしく見える。 もとは赤ん坊の形を成していたのが、打撃を受けてぐちゃぐちゃになったような有様。 まあ、そういうことなのだろう。 目を背けたくなるような、おぞましい化け物じみた子供をまえにして、血まみれの俺は、不思議と心が凪いだよう。 腹が裂けた彼にしろ、ご満悦とばかり笑みを浮かべたまま絶命しているし。 口らしき空洞を広げて「ああああああ!」と絶叫する子供を、鼓膜を破裂させながらも見つめつづけて思う。 俺は単に生きたいからでなく、このために生きていたのかもしれない、と。 滑稽な牧師ごっこをするのも今日までかと思えばせいせいとし、自分が蹴りつけた胎児を最後まで眺めながら、食われた。
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