恋人と送るオンラインのスローライフを18禁のホラーに塗りかえないでくれ①

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恋人と送るオンラインのスローライフを18禁のホラーに塗りかえないでくれ①

スローライフを送る系のゲームには都市伝説がある。 「オンラインで浮気をした男は呪いにかかる」というものだ。 発端はあるカップル。 遠距離恋愛でなかなか会えなかった二人がオンラインのゲームで、家を建てたり畑を耕したり近所でパーティーをしたり、疑似結婚生活を送っていたらしい。 そうして寂しさを紛らわして順調に交際をつづけていたものを、彼女の仕事が多忙に。 ゲームでも会えない日々がつづき、でも彼氏は気分を害さず「無理しないでね」「仕事がんばって」とこまめに連絡を。 その後押しがあって、ますます彼女は仕事にのめりこみつつ、なんとか休みを取得し、彼の死誕生日にサプライズを決行。 「今日も残業」と連絡したあと、ひそかにゲームにログイン。 二人で建てた家、オンラインの愛の巣へ、仲間とともに「おめでとー!」と押しかけたところ、彼氏だけでなく、見知らぬ女の子のアバターが。 仲間でとり囲んで詰問したところ、彼女が仕事で忙殺されている間、知りあって親密になった浮気相手と発覚。 「すぐに別れて!」と迫るも「俺はずっとそばにいてくれる彼女を選ぶ!」「私、譲るつもりありませんから!」と二人は断固として拒否。 どれだけ二人が愛しあい、絆を深めているかを熱弁しつつ、苛烈に彼女の非難を。 「俺が好きな18禁の男性向けホラーゲームも彼女は受けいれて、プレイするのをにこにこと見守ってくれたしな! お前は一切、興味を持たず、なんなら軽蔑していただろ!」 「あなたは『お下劣なゲームをつづけるなら別れる』って脅したそうじゃないですか! 愛する人が好きなものを、そうやって踏みにじるなんて浮気されるのも当然ですよ!」 浮気したことを棚にあげ、息つかせず二人で責めたてると「ああああああ!」と彼女は発狂。 農具の釜を持ったなら、自分の首を切り裂き、血を噴出しながら倒れた。 ゲームでは自殺も他殺もできず、そもそもアバターが死ぬこともないはずが・・・。 運営はすぐに彼女のアバターを消したとはいえ、なぜか、床に散った血はそのまま。 胸騒ぎがした彼氏が、現実の彼女に電話をかけたりメッセージを送るも、連絡がとれず。 仮想現実でそうした騒動があったと同時に、現実世界では奇声を耳にした隣人が通報したことで、彼女の遺体を警察が発見。 包丁で首を切ったらしく、血だまりに倒れていたという。 ゲームのバグと彼女の死と関連性があるかは謎。 あくまでプレイヤーの痴情のもつれであり、ゲーム自体に問題はなかったとして、この件を公表せず、会社は運営を続行。 当事者の二人も図太いもので「オンラインの愛の巣を手放すのはもったいない」とゲーム上での交流をやめず。 その日は二人が交際しだして半年記念ということで、彼氏が仲間とサプライズパーティーを企画。 新彼女のアバターが一人でいる部屋に、彼氏と仲間たちが歌いながら、巨大なケーキを運んだところ。 「わあ!うれしい!」と彼女が跳びあがった間もなく「な、なんだこれは!?」とケーキを落として、彼は挙動不審に。 周りが「どうした?」と心配そうに呼びかけるも無視して、這いつくばったまま動かなくなったり、悲鳴をあげて部屋を走り回ったり。 ついには「やめろおおお!」と床に倒れて、呻きながら痙攣。 そのうち、なにかに齧られるように、血しぶきをあげながらアバターの肉体がえぐれていき、床にのこったのは人骨だけ。 途中でパソコンのまえから離れた新彼女は、彼氏の家に跳んでいき、果たして室内で見つけたのは死体。 無傷ながら、目を見開いたまま絶命していたという。 死のないオンラインゲームで、ありえないはずの二回目のバグ。 さらに死者も二人目となれば、会社もしらを切れずゲームを閉鎖。 といって、これで事態は収束せず、ある噂が広がりつづけた。 サプライズパーティーがあった日、彼氏が死んだだけにとどまらない異常事態が発生。 同じくオンラインでプレイしていた四人が狂って、精神病院送りにったらしい。 四人は男で、お互い友人や知り合いではない。 ただし、例の彼氏のように、全員、オンラインで浮気をしていたとか。 この噂を聞いた人たちは、さまざまな憶測を交わしたが、皆が口をそろえていったことには「きっと浮気されて自殺した彼女の呪いだろう」と。 張本人はもちろん、オンラインで浮気をした男も許せなかったのではないか・・・。 目撃者曰く、彼氏に異変が見られた、ほぼ同じくらいに四人も似たような奇行を。 それらの証言を元に「そのとき五人は18禁のホラーゲームに意識が入りこんだのではないか」とゲーマーは推測。 そのゲームは「満月の四に少女たちは森をさ迷う」。 森深くに住む凶暴な狼男たち。 ふだんは人目を忍び、森にひきこもって暮らしているが、満月の夜にむけて五人のうら若き乙女を誘拐。 いざ満月の夜になると、五人を森に解き放ち、追いかけっことかくれんぼに興じる。 「18禁」とあり捕まれば強姦。 とはいえ、その時点ではゲームオーバーにはならず、狼男が飽きてしまい食うまでの間は逃げることが可能。 生きのこるには狼男に見つからないよう、または強姦されたとして、も食われるまでの猶予に脱して、縄張りをぬけるしかない。 ちなみに新彼女がいうには「彼とこのゲームをやったことがある」と。 ならば、浮気が発覚したとき「18禁の男性向けホラーゲームを軽蔑するなんてひどい!」と責めた意趣返しにはもってこい。 なにもかも根拠のない推測だったが「四人も道づれに呪うとは、女の嫉妬と恨みはおそろしい・・・」と男のゲーマーは震えあがったもので。 さらに恐ろしいことに、彼女は怨霊としてオンラインにとどまり、次次と浮気男を呪っている説がある。 このごろ、スローライフを送れる人気のオンラインゲームが相次いで閉鎖になっているのは、彼女が暴れているからではと、まことしやかに噂が。 会社は隠しているものを、多くの証言が聞こえてやまず。 「浮気していた友人が噂どおり、バグになったような奇行をして死んだ」とか「リアルに連絡をとったら入院したって・・・どこの病院か教えてもらえない」とか。 真偽は定かでないとはいえ、下心のある男プレイヤーは委縮して、オンラインゲームを気がねなく、たのしめていないとか。 かくいう俺は心おきなく、オンラインでできた彼女と円満にすごしている。 俺はリアルに恋人がいないし、彼女にも恋人がいないか、何回も確認をした。 告白して「わたしも」と返事をもらいつつ「心の準備が」とまだリアルに会えていないが、延延とプレイしてチャットをしても飽きないほど相性はばつぐん。 アバターの印象とちがう容姿をしていたとしても、気にしない自信がある。 浮気相手を探す軽薄なやつとちがって、こちとらオンラインを通して相手の中身を見極めて、真摯に恋をしてるんだよ! 噂に翻弄される同性のプレイヤーたちに変な優越感を覚えながら、健気でしおらしい彼女と愛を育んでいたのだが。
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