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恋人と送るオンラインのスローライフを18禁のホラーに塗りかえないでくれ②
今日は彼女の誕生日。
オンラインで会える時間を遅くに知らせておいて、そのまえに仲間とサプライズで登場するつもり。
夕日がしずむころ、湖の近くで寂しそうに佇む彼女。
「絶好のタイミングだ!」と仲間たちと藪のなかから跳びだしたそのとき。
足を地面に置いたとたん、画面を見ていた俺の視界は一変。
頭上から薄明かりがさす、夜の森に。
「は!?」と声をあげた間もなく、走る足音が耳につき、反射的に木の影にしゃがみこむ。
木を挟んで向こう側を走りぬけていく息づかいの荒いそれ。
気になって、あまり顔がはみでないよう見やれば、四足歩行の巨大な狼が。
すぐに思い浮かんだのは、ネットの噂「浮気された彼女の呪い」。
「いや、でも・・・」と頭を混乱させるも「いや、今は生きのこることだけを考えろ」と気をとり直し、とりあえず他のプレイヤーを探すことに。
俺は18禁のホラーゲームをやらないタイプだし、このゲームも未プレイ。
その類に詳しいか、プレイ経験のあるやつに詳しく教えてもらい、協力してもらわないことには生きのこれないだろう。
噂では五人が兆候を見せると、かならず一人が死亡、四人が発狂。
今のところ狂わすに生還した人はいないようだが、あくまで舞台はゲーム。
彼女が浮気男に制裁を食らわしたいなら、ひたすら拷問するような悪夢を見せて全員殺せばいい。
そうしないのは、いくら無敵のような怨霊の彼女でもそんな一方的なことはできないからで、復讐をゲームの形にしたなら、俺たちの敗北が必至ではない。
と思いたいところ。
元のゲームにしろ、女の子が狼男に犯されるのを眺めるのが醍醐味なのだろうが、生還できると聞いているし、この森のどこかに出口があるはず。
と願いたい。
未プレイの俺は、出口の方向も見当がつかないに、詳しいやつを早く捕まえないと・・・。
焦りながらも、まわりに注意をはらい、すこしでも音を聞きつければ、瞬時に木や草むらに身を隠したりと慎重に慎重を重ねて移動。
疲弊してきたころ、倒れた大木を見つけ「ちょうどいい」とその空洞にはいり一息。
小穴から辺りを窺ったところ、すこし先の木にもたれて息を切らす男が。
「やっと見つけた!」とあげそうになった声を飲み、小石を手にとって投げる。
ぎくりとしつつ見回して、小穴から覗く俺に気づいた彼は、匍匐前進しながらこちらへと。
大木の空洞のなかで、顔を突きあわせて「俺はハンドルネーム、鏡餅。あんたは?」とすぐに自己紹介。
同じ境遇の人を見つけ、ほっとしていたような彼は、とたんに顔を強ばらせる。
徐徐に視線をずらしていき呟いたことには「お、俺は、もちもち肌・・・」と。
もちもち肌はオンライン上の俺の恋人であり「彼女」のはず。
思わず大口を開けるも、声量をおさえて「おまえ、嘘をついて浮気していたのか!」と叱責。
いや、はじめから変だと思っていたのだ。
だって俺は浮気していないし、相手が浮気していたにしろ「女に浮気された男」が呪いの対象になるとは聞いたことがないし。
ただ、相手が男だったなら納得。
「オンラインで浮気をして現実の彼女をないがしろにする男」として復讐の対象になりうるから。
それにしても、性別も恋人も隠されて騙されていた俺を呪うなんて、お門違いではないか。
オンラインで一回も会ったことのない相手のいい分を信じるのが、愚かだとしても。
「それでも元凶はこいつだろ!」と怒りが湧くも、どうにか自分を宥める。
責めるだけ時間の無駄だと割りきり「・・・あんたは、こういうゲームしたことがあるの?」と質問。
気まずそうにして、目を泳がせながらも「あ、ああ、このゲームもしたことがある」と朗報を。
「呪いだとしても、もともとあるゲームの世界なのだから、こちらに勝ち目がないことはない・・・と思いたい。
ゲームでは縄張りから、ぬけだせばいいんだろ?
それは、狼たちの住処から、ある程度の距離を逃げればいいってこと?
もしくは、一か所の脱出口のようなところに向かうのか?」
「ああ、その・・・満月にむかって走りつづけると、縄張りと人里の境目があるとされている。
そこを踏みこれたら生還できるけど、難易度が高くて俺は一回も・・・」
「マイナスになる情報は教えてくれるな。
ほかに役に立ちそうなネタはないのか?
捕まっても緊急回避ができる裏技とか」
「緊急回避はできないけど、強姦したあと狼男が聞くんだ。
『道づれにしたいやつはいるか?』って。
『いる』って応えて、その相手を選択すれば、狼男が総出でそいつに襲いかかる」
「は!?なんで、そんな鬼畜な設定が!?」
「エロのホラゲーだけど、一応オンラインの複数プレイだから。
基本、協力するものとはいえ、中には人を利用して裏切って自分だけ生還しようとするのもいるだろ?
そういうやつへの報復措置なわけ。
ちなみに一斉に襲われたやつは、犯されることなく食べられてゲームオーバー。
エロゲーとしてのご褒美、エッチシーンも見られないという罰を受けるんだよ」
「な、なるほどエロゲーも奥が深いんだな・・・」と変に感心する俺に「あと、そうだ」とさらにアドバイスを。
「草むらにころがって、なるべく自然の匂いをつけて。
狼男たちはゲームをたのしむために鼻栓をしている。
鼻が利いたら、すぐに人間を見つけてしまって、それじゃあ遊びとしてつまらないから、あえてね。
ただ、狼男たちの中でも、額に白い模様がはいったやつは、ほかのより人間的で狡猾だ。
おまけに鼻栓をしていない。
出現率が低いとはいえ、要注意だ」
罪悪感があるせいか、説明が丁寧だし、話しぶりも親身。
「そういえば、ゲームに不慣れな俺にこうして親切にしてくれたなあ」と懐かしさを噛みしめるも、頬を両手で叩いて頭の切りかえを。
「俺は右半分を注意するから、もちもち肌は左半分を監視して」と指示し、月にむかい二人ですこしずつ前進。
五回ほど狼男が接近したものの、どちらかが早く気づき、息を潜め隠れてやり過ごしたもので。
見つかりそうになったときは、もちもち肌がとっさに石を投げて狼男の気を逸らしたり、俺に覆いかぶさって地面に伏せたり、なんてことも。
俺を騙した相手でも、男と知っても、そうして颯爽と庇ってもらうと心が揺れるし、つい見惚れてしまう。
「償うために、きみを必ず生還させる」と真顔で決意を述べられると尚さら。
勇ましく頼もしいゲーム経験者に腕を引かれて、幾度の危機を乗り越えていくうちに、森が開けてきた。
もちもち肌曰く「縄張りの境界に近づいている」と。
ただゲームとあって終盤になると難易度が高くなる。
縄張りの境界近くは、見通しのいい平原で、身を隠せる草むらや、木や岩があまりなし。
狼男が行ったりきたりして、その目を盗めるタイミングがあるような、ないような。
平原のまわりには木々が並んでいるも、林のなかには狼男がうじゃうじゃいて通行不能。
僅かな隠れ場所しかない平原を突っ切るしか術はない。
ゲームでも同じらしく「最大の難所で、ここを突破できたプレイヤーはすくない」とのこと。
平原の手前、背の高い草むらに身を潜めながら、作戦を練っていたところ。
林から平原にのっそりとでてきた狼男が。
額に白い模様があるのを見とめたと同時に狼男がこちらにふりむき「しまった!」ともちもち肌が小さい悲鳴を。
「ここに長時間とどまっていたら、あいつが出現するんだった!」
重要なことを忘れていたようで「どうするんだよ!」と慌てるうちにも、鼻をひくつかせる狼男がこちらに突進。
「くそ!」と俺を引っぱりあげたもちもち肌は、次の瞬間、突きとばした。
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