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Fさんは内心パニックに陥る。Iさんのことが心配だが、どうするべきなのかわからない。
彼を探してもう一度上階へ行くか迷い、上を見上げた。
落下してくるものがある。
人の身体だった。Fさんの横を通り過ぎていく。
「えっ、うそ」
Iさんの服装をした人間らしき固まりが落ちていった。
やはりIさんは屋上にいたのか、自分が早く彼の元へ行っていれば。瞬く間にそんな後悔が襲い、彼女は目を閉じた。
……しかし、人が落ちたときのような衝撃音がない。
慌てて目を開けて確かめるも、眼下に人が落ちたような形跡が見受けられない。
「も、もう、何が何だかわからないよ」
涙目となったFさんは急いで非常階段を駆け下りる。我が身かわいさで、もはや幽霊の撮影もIさんのことすらも諦めていた。
入ってきたガラス扉を開けてマンションから出る。
鍵が開いていたことに安堵しながら、Fさんは少し離れてマンションの方を見た。
その瞬間、マンションの窓という窓から、Iさんの顔をした何かが一斉に顔を出した。
「ひいいっ!」
ゾワワワワッ!
Fさんは心臓に強い圧迫を感じ、そのまま意識を失った。
「F! F! しっかりしてくれ」
頬を軽く叩かれる感触で、Fさんは意識を取り戻した。
目の前には心配そうにFさんを見つめるIさんの姿があった。
「え、I、どうして」
道路で気を失ったはずのFさんだが、Iさんに発見されて歩道まで運ばれてそこで横たわっていた。
Iさんと再会できて喜ばしいが、そもそもマンションの中でIさんに振り回されたようにFさんは感じており、ついつい責めるような言い方をしてしまう。
「でも、Iが中でいなくなっちゃったから、大変で。あたし、探して回ってたんだから」
それを聞きIさんは怪訝な顔をする。
「俺、マンションの中に入ってないよ」
「えっ、だって、あの扉から」
「いや、お前が開いてるって言ってたガラスの扉、鍵がかかって入れなかったんだよ。いきなりお前の姿も見えなくなったから、マンションの周りをうろついてるのかと思って探してた」
信じられない思いだった。
「嘘……え、だって、電話もしたし」
「ああ、電話は俺もしてたよ。話し中だったけど」
双方の発信履歴を見ると、確かにFさんがIさんにかけた時間帯にIさん側もFさんにかけていたのである。
しかし屋上へ誘う謎の電話は、Iさんのスマホの発信履歴には残っていなかった。
「そ、それじゃあ、マンションの中であたしと歩いてたのは、いったい誰なの?」
Fさんにマンションの情報をくれた人物は、SNSからも姿を消していた。それ以降、Fさんは面白半分で廃墟に立入ることをやめたそうである。
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