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8 遠雷が聞こえる
閣下に見送られて、保安隊の女子寮にたどり着いた。
ずぶ濡れになってしまい、かなり寒い。頭がぼーっとする。
「くしゅっ」
「リア、大丈夫? 俺の部屋に来て、ベッドの上で裸体になって、互いにあたためあおう?」
「後半が卑猥なので、ご遠慮します」
わたしの体はガクガク震えているのに、閣下の体は微動だにしない。体が丈夫なのだろう。羨ましい。
「女子寮は男子禁制なので、ここで失礼します。送ってくださって、ありがとうございました」
「俺、実は……」
「女なんだとか言わないでくださいね。心配なのは分かりましたから。閣下もお風呂にすぐ入ってくださいね。それでは、失礼します」
フラフラになりながら、左足を後ろに引き、腰を落とす。
管理人さんに言って、予約制の浴場を使わせてもらった。風呂からでて、ベッドに横になると、体が火照っていることに気づく。まずい。熱がでそう。
寝るに限ると思って、わたしは目を閉じた。
遠雷が聞こえる。
空に厚い雲がかかっていたから、雷を連れてきたのだろう。光が空ではぜ、窓の外が真っ白になった。獣の唸り声のような轟きが聞こえ、じょじょに視界が鮮明になっていく。顔を上げると、見慣れた女子寮の天井ではなかった。
代わりにいたのは、憎々しげにわたしを見る、婚約者の姿だ。
なぜ、ここに彼がいるのだろう。
なぜ、わたしは手錠をされて、彼の前でひざまずいているのだろう。
――ああ、そうか。
これは夢で、わたしの過去だ――
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