6.突然の来訪

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宍戸はアパート前にある植え込みの前に立っていた。時間を気にしているのかスマホの画面に目を落としていたが、ドアが開いた音に気づいて私の方へ首を回した。 宍戸と目が合って、私はつい目を逸らした。 私の方から声をかけた方がいいのかな――。 そんなことを考えている間に、宍戸はゆっくりとした足取りでやって来た。私を目の前にした途端、表情を揺らす。 「急に、ごめん」  「うん……」 かすれたような宍戸の声に、私もつられて声が小さくなる。 休日だから当たり前なのだが、宍戸のラフな私服姿を見たら、なぜか急に緊張する。そんな姿の彼を見るのは、初めてではない。新人研修の時にすでに見ていて、あの時は特に何にも感じなかった。彼の様子がいつもと違うから、私まで調子が狂ってしまっているらしい。 「あのさ」 と宍戸が口を開いたその時、風が強く吹いた。 思わず私はつぶやく。 「少し肌寒いね」 「あ、ああ、そうだよな」 宍戸はハッとして私を見下ろした。 「まだ夕方はちょっとな。……岡野、せめて玄関に入れてくれない?このままここで話すのは落ち着かないし、岡野も風邪引きたくないだろ」 「え、えぇと」 ためらう私に宍戸は訊ねる。 「それとも、近くの店にでも行くか?支度できるまで待ってるけど」 どうしようかと迷う。このままの格好では出かけられない。でも、わざわざ準備してどこかに移動するのも面倒だ。とは言え、こうやって外で話しているのも、宍戸が言うように落ち着かない。周りの目も気になる。 「……分かった。入って」 そう言いながら私は体の向きを変え、肩越しに宍戸を見た。 私の見間違いでなければ、宍戸が躊躇したように見えた。 突然の訪問に対する報復というわけじゃないけれど、少し意地悪をしたいような気持ちになって、私は念を押すように訊ねた。 「どうする?また、日を改める?」 「いや」 宍戸は即座に首を横に振った。 「玄関で、だからね」 「分かってるよ。――お邪魔します」 苦笑を浮かべながら、宍戸は私が開けたドアの内側に足を踏み入れた。
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