1.初対面の日

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【忘れ物】 ひと寝入りして目を覚ましたのは、お昼過ぎだった。 「うーん……」 ぐっと体を伸ばし、のろのろと起き上がる。 二日酔いはないが、眠りについたのが明け方だったからか、体が重い。 とりあえず何か口に入れようと冷蔵庫を開けた。が、入っていたのは、水とヨーグルト、トマト、卵が二つ。それなのに昨夜、補佐に対して「何か召し上がりますか」などとよく言えたものだ。彼が「うん」と言わなくてよかったと思う。 買い物に行こう。 私は手早くシャワーを浴びると、出かける準備をした。働き出してから習慣となった薄めのメイクは忘れない。玄関のチャイムが鳴ったのは、靴に履き替えようとした時だった。 この部屋にインターホンはついていない。ドアの小さなのぞき窓から外の様子を伺って、すぐに息を飲んだ。そこに山中部長補佐の姿があったからだ。 どうして……? 驚くと同時に、メイクしておいてよかった、などと思う。前髪を指でそろえながら、私はドキドキしながらドアを開けた。 彼は私を見ると、爽やかな笑みを浮かべた。 「こんにちは」 「こ、こんにちは」 目の前で笑顔を見せる彼は、昨夜とは違いカジュアルな格好をしていた。スーツ姿の時とは別人のように親しみやすい雰囲気だったが、それがまぶしすぎる。直視できなくて、私はわずかに視線をそらした。 「えぇと、どうかされましたか?」 動揺を抑えようとしたら、とても平坦な口調になってしまった。無愛想に聞こえてしまったかもしれないと思ったが、補佐にそれを気にした様子はない。 彼は穏やかな声で言った。 「突然ごめんね。――もしかして、これから出かけるところだったかな」 「えぇ、まぁ……」 「実はちょっと忘れ物があって。連絡先を知らないから、迷惑を承知で直接来てしまったんだけど……」 「迷惑だなんて、そんなことはないのですが。ええと、何をお忘れになったのでしょうか?見てきます」 「忘れ物は……」 補佐が後ろ手に持っていた紙袋を差し出した。 「これ。夕べのお詫びに」 「え?」 「たいしたものじゃないんだけど、受け取ってくれない?」 中を覗き込むと、そこにはワインが二本入っていた。 「困ります、こんなの。気を使わないで下さい」 「つい最近友人からたくさん送られてきてさ。一人じゃ飲み切れなくて。おすそ分けみたいなものだから、気にせず受け取ってもらえたら嬉しいんだけど」 「でも…」
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