1.初対面の日

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宍戸が意味ありげな目で私を見た。 「やっぱり岡野もあぁいう人がタイプ?」 「え?!」 飲みかけていたビールを危うく吹き出しそうになった。私は慌てて口元をハンカチで覆うと、呆れ顔で宍戸を見る。 「いきなり何?」 「だって、さっきからずっと、補佐を目で追ってるからさ。もしかして好きなのかな、って思ったから」 「好きって……。やめてよ」 私は即座に否定した。 「顔と名前を覚えようとしていただけです」 宍戸は唇を尖らせた。 「なによ」 「もしかして自覚ないの?てっきりそうなのかな、と思ったんだけどな。でも、山中補佐なら仕方ないよな。岡野ってそういう免疫が全然なさそうだし、あの人に堕ちるのなんかあっという間だろうな」 「ちょっと、まさかの絡み酒?……宍戸、もう酔っぱらってるの?」 私は苦笑しながら、空になっていた彼のグラスにウーロン茶を注いだ。 宍戸はそのグラスに手を伸ばし、ぐいっと中身を飲み干す。 その時、笑いを含んだ声が頭上から降ってきた。 「今年の新人同士は仲がいいんだね」 私と宍戸は慌てて姿勢を正し、声を揃えて言った。 「お疲れ様です」 「ここ、お邪魔してもいいかな?」 「もちろんです!」 私たちは目を合わせた。 まさか、今の聞かれた……? どうだろ……? 聞かれていなかったとしても、話題にしていた本人が目の前にいるのは気まずい。 私は目を伏せたまま、テーブルの上を急いで片付けた。 「ありがとう」 補佐からそう声をかけられて顔を上げた私だったが、一瞬息を飲んだ。 社長から一目置かれているすごい人――。 宍戸からそう聞いた時は、厳しい人なのかと思っていた。遠目で見た時にもそう思った。それなのに、その笑顔は反則級だ。その顔には、相手の警戒心を解いてしまうような柔らかい笑みが浮かんでいた。 いやいやいや。これこそが実は、営業用の顔というものなのかもしれない――。 その笑顔につられないように、と私は気を引き締めた。
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