1.初対面の日

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【帰り道】 せっかくの機会だから一緒に行こうと誘われはしたが、帰りたかった私は断った。 「もう今夜はかなり酔ってるので、これで帰ります……」 「全然酔った顔していないよ。本当はまだ飲めるんじゃないの?」 酔っぱらった先輩たちからそんな風にからかわれたが、私は笑いながら否定した。 「そんなことないです、ただ顔に出ないだけなんです」 それは本当だ。もうだいぶ酔っているという自覚があった。人前で醜態をさらすわけにはいかないと、平気なふりをしているだけなのだ。 「どうぞ皆さんで楽しんで下さい」 私は頭を下げた。 「それじゃあ、またの機会にね」 そう言って先輩や同期たちは、信号が青に変わったばかりの横断歩道に向かって歩いて行った。 宍戸が心配そうに私の顔を覗き込む。 「送っていこうか?」 私は首を横に振った。 「大丈夫よ。タクシーで帰るから。それよりもほら、みんな待ってるみたいだよ?」 「おーい、宍戸!」 大声で名前を呼ばれて、宍戸は肩をすくめた。 「俺も帰りたいんだけど」 「気持ちは分かる。でも営業なら、特に先輩たちの誘いは断らない方が後々いいんじゃないの?」 宍戸はうんざりしたように顔をしかめた。 「まったく、今どき体育系の乗りはやめてほしいよ。……それじゃ、気をつけて帰れよ。なんかあったらすぐ電話しろよ」 「はいはい。お疲れ様」 再び宍戸を呼ぶ声が聞こえた。 彼は気がかりそうな顔で私を見たが、諦めたように先輩たちの方へと走って行った。 「宍戸っていい人」 私はふふっと笑いながら、同期の後ろ姿を見送った。 「さ、帰ろう」 一人つぶやき、タクシー乗り場がある大通りに向かって歩き出した時だった。背後から私の名を呼ぶ声が追いかけてきた。 「岡野さん、待って!」 私はびくりとして立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。 「補佐?」 私は目を見開いた。 「ごめん、びっくりさせたよね。えぇと、岡野さん、で合ってるよね」 「はい。ええと、お疲れ様です」 私はどぎまぎしながら言葉を返した。目の前にいるのは、私から見れば雲の上のような人物だ。緊張してしまい、酔いが一気に醒めそうだった。 「お疲れ様。ところで、タクシーを拾おうとしてるのかな?」 「はい」
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