6.突然の来訪

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私はサンダルを脱いで上がり框に立ち、宍戸に向き直った。 玄関は広いわけではない。そこで実際に相対してみると、私たちの間の距離は思っていた以上に近かった。段差も低いから目線も宍戸と同じくらいの高さになってしまい、どこを見たらいいのか迷う。玄関とはいえ、ここで二人きりになるのはやめた方が良かっただろうかと、後悔し始めていた。 やっぱり場所を変えようか――。 そんなことを思った時、宍戸が私の名前を静かな声で呼んだ。  「岡野」 「は、はい」 思わず律儀に返事をしてしまい、ここは会社ではないのに、と恥ずかしくなる。 それを見た宍戸はふっと表情を緩めると、もう一度私を呼んだ。 「岡野」 それは宍戸と知り合って初めて耳にする甘い声であり、初めて見る甘い表情だった。知らなかった彼の一面に、私はドキドキしてしまう。 これはただの動揺だ――。 私はきゅっと唇を引き結んだ。 「後悔したくないから来た」 私は身構えた。この後の展開は予想がついている。会うことを決めた時に、こうなるだろうと分かっていた。私は緊張で顔を強張らせながら、宍戸を見た。  「どうしても伝えておきたかった」 彼はそう言って私を真っすぐ見ると、かすれた声で、しかしはっきりとした口調で続ける。 「お前が、好きだ。新人研修で何度か話をすることがあってからずっと、岡野のことが気になって仕方なかった。色んな理由をつけて、できるだけお前の近くにいたいと思った。でも俺は素直になれなくて、お前のことをからかったり絡んだり、まるで子どもみたいな真似をしてた。すまない」 それを聞いた私は、そうだったのかと、これまでの宍戸の態度の謎が解けたような気がした。飾り気のない彼の言葉に、心が揺れそうになった。もしも私に好きな人がいなかったら、その告白に頷いてしまったかもしれない。でも、私は――。 どんな言葉を返せばいいのかと考え込む私に、宍戸は苦い思いをにじませた眼差しを向ける。 「岡野が山中部長補佐しか見てないってことは、知ってる」
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