6.突然の来訪

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【カレの気持ち】 宍戸は自分の足元に目を落とす。  「だけど、それは俺だって同じだ。岡野だけを見てた。好きだっていう気持ちを簡単には消せない。俺はお前の側にいたいし、お前に傍にいてほしいって思う。……俺じゃだめなのか?」 「そんなこと言われても……」 私は息苦しくなって、宍戸から目を逸らした。恋愛経験が少なすぎる私の頭の中はすでにパンク寸前だったけれど、それでも私は考えようとした。 どうすれば宍戸を傷つけずに断ることができるだろう。どんな言葉を選べば、彼は納得してくれるのだろう――。 宍戸は私の答えを待つように、じっと黙ったままだ。 静けさが重苦しく積み重なっていく中、私は彼の視線をひしひしと感じて、追い詰められたような気分になっていた。 ドアの向こう側で靴音が聞こえたのはそんな時だ。それはだんだんと近づいてきた。 通路にまで会話はもれていないはずだったが、私たちははっとして互いの顔を見合わせた。 その足音は私の部屋の前を通り過ぎると、何軒か先の部屋の前で止まった。どうやら他の部屋の住人が帰ってきたらしい。ドアの開閉音が小さく聞こえた。 我が家への訪問者ではなかったことにほっとする。けれど今の靴音は、気持ちを切り替えるきっかけを私に与えてくれた。心を落ち着かせるために自分の胸の上に手を置き、とても長い息をはいた。 私は宍戸が好きだけれど、それは同僚として、あるいは友人としてであって、恋愛感情にはなり得ない「好き」だ。だから、彼の気持ちには応えられない。宍戸は真っすぐな言葉で気持ちを伝えてくれた。だから私も素直に、けれどもはっきりと答えるべきだと思った。どんな言い方をしても、彼の心が痛むことには変わりはないだろうから、と。 意を決して私は顔を上げた。詰まりそうになる喉を励まして、宍戸の顔から目を逸らさないようにと努めながら口を開いた。 「ありがとう。私のことをそんな風に想ってくれていたなんて、すごく驚いたけれど気持ちは嬉しかった。でも、私には好きな人がいる。宍戸と同じ気持ちを私は返せない。ごめんなさい」 宍戸は身動きせず、私の言葉にじっと耳を傾けていた。
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