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私は続けた。
「きっと宍戸には、私なんかよりもずっとふさわしい人がいるはずよ。だから私のことは……」
私の言葉はそこで途切れた。いや、最後まで言うことができなかった。
「し、宍戸っ……!」
それはあっという間の出来事で、抵抗できなかった。視界が一瞬黒く遮断されたと思った時にはもう、私の体は彼の両腕の中に引きずり込まれていた。
「離して!」
私は腕を突っ張ってその腕の中から逃れようと試みた。
宍戸はその腕に力を込めて、私を逃がすまいとするかのようにさらに強く抱き締めた。
「好きな相手から『他にいい人がいるよ』なんて言われるのは、分かってはいてもやっぱりダメージあるな。で、その先は?忘れてって言おうとした?それとも諦めて?」
恨みがましくそう言うと、宍戸は私の髪に顔を寄せた。
「いい匂いだな」
私はどきっとした。熱を帯びたその言い方に、宍戸の「男」の部分を感じてしまった。こんな時にそんなことを思うなんてどうかしている。
「やめて」
私はもがいて宍戸の腕の中から抜け出そうとしたが、その腕はびくともしない。
宍戸は私の耳元に囁いた。
「簡単に諦められるんなら、苦労しない。岡野にもそういう気持ちは理解できるだろ?」
そう言い終えると、宍戸は私の耳にそっと歯を立てた。
「やめてよ……」
耳の辺りがカッと熱くなった。頭の芯が麻痺しそうになって、抵抗の言葉に力が入らない。
私の耳を噛んだまま宍戸は囁く。
「風呂上がりって分かる、そんな隙だらけの格好で俺の前にいるのが悪い」
「そんなことは……」
ない――。
宍戸の言葉を否定しようとして、私ははっとした。うっかりしていたけれど、今夜はずっと部屋にいるだけだからと、素肌の上に服を重ねていただけだった。しかも髪にはまだ湿り気とシャンプーの匂いが残っている。自分ではいつも通りのことだったけれど、他人から見たら確かに隙だらけとしか言いようがない。こんな状況では宍戸だけを責められない。
「そんな姿で現れて、誘ってるって思われても仕方ないだろ」
宍戸はそう囁き続けるが、もちろん私にはそんなつもりは一欠けらもない。
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