6.突然の来訪

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「全然そんなんじゃない。離して――」 否定し、抗う私の声は、宍戸の耳には届いていない。彼の吐息はますます熱を帯びていく。背中に回したその腕で私を絡め取ろうとしながら、唇を私のこめかみへと滑らせた。 「宍戸、お願い、離してったら!」 私は声を振り絞りながらそう言うと、もがきながら首を反らし顔を上げた。ちょうど目の前に彼の顎が見えて、私はそこに思いっきり歯を立てて嚙みついた。 「いって……!」 それはけっこうな痛みだったんじゃないかと思う。その痛みと驚きとで、宍戸はようやく私から腕を離し、私に噛まれた部分をさすりながら苦笑を浮かべた。 「まさか嚙みつかれるとは思わなかった」 悪びれもせずに平然としている宍戸に、私は震えるほどの怒りを感じていた。 「どういうつもりなの。からかってるの?」 「ごめん。悪かったよ」 実際はたいして悪いとは思っていなさそうなその顔に、平手の一つもお見舞いしてやりたいと手が出そうになった。 それなのに、宍戸は飄々としてこんなことを言う。 「お前のことあまりにも好きすぎて、我慢できなくなった」 「っ……!」 私は両手を握りしめた。 「最低!信じていたのに」 自分をにらみつける私に動じることもなく、宍戸は私を見返した。 「信じる、ねぇ……」 壁に背を預けて、宍戸は苦々し気に唇を歪めた。  「岡野は、俺のことを無害な男だと思ってたんだよな。全然意識もしてなかったみたいだし」 宍戸は腕を組むと私を横目で見た。 「岡野は俺のことなんとも思っていないから、ドアの内側にあっさりと入れたんだよな。しかもあんな格好でさ」 「それは、宍戸を信頼してたから……」 「信頼って、どういう意味で?」 「どういう意味って……。言葉通りよ」 怒りはまだまだ収まっていない。それなのに、暴挙を仕掛けてきた張本人と私は会話を続ける。どうしてと思いながらも、私の口は動く。 「宍戸は頼りになる同僚で、気兼ねなく付き合えてたから、できればずっと仲よくやっていけたらいいなと思ってたわよ。……残念ながら、それも今日で終わりだけど」 宍戸は乾いた声で笑った。 「信用ガタ落ちだな」
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