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「自業自得でしょ」
私はひんやりと冷え切った声でそう言うと、じろりと宍戸を睨んだ。
宍戸はそんな私を見て苦笑を浮かべ、これ見よがしに大きなため息をついた。
「俺は岡野の恋愛対象から外れてるかもって、そんな気はしてたけどさ。改めてはっきり言われるのは、やっぱりへこむな」
「それは……」
「なぁ」
宍戸は体を起こして私に問いかけた。
「どうしたら、俺のこと、意識してくれるんだ?」
私に向けるその眼差しは、よく知っているはずの宍戸ものではなかった。私の怒りが薄れてしまいそうになるほど真剣だった。彼の視線を受け止めていられなくなり、私は逃げるように宍戸からふいっと顔を背けた。
「そんなこと言われても困る。今夜のことはなかったことにするから、もう帰って」
せめて事故だったことにして、いつか笑い飛ばせるようになったらいい、宍戸と今まで通りの関係に戻れたらいい、と思った。それは自分勝手だと分かっている。だからその本心を口にはしない。
「さっきはつい謝ってしまったけど、俺はなかったことにはしたくない。岡野との関係だって、できることなら変えたい」
顔を見なくても、宍戸の声や口調から真剣な気持ちが伝わってくる。
私はうつむいた。
「……でも、私はそれに応えられない」
すると宍戸が不意に口調を変えた。
「それなら、これ、やるよ」
そう言って私の目の前に何かを差し出した。
「……映画のチケット?もしかして、この前言ってた?」
「あぁ。それ、やるよ。あの人のこと、誘ってみれば?」
「え……」
唐突すぎる宍戸の提案に、私は困惑した。
「いきなり何?」
宍戸の意図がよく分からない。
眉を顰める私に宍戸は言った。
「いいから受け取れ」
なかなか手を出さない私に、彼は押し付けるようにチケットを握らせる。
「え、だって……」
宍戸は器用に唇の端だけを上げてにやりと笑った。
「それ使ってさっさと決着つけろよ、補佐との関係をさ。ほんとのこと言うと、岡野が補佐にフられるのを待ってたんだよ。で、お前が弱ってるところにつけこむつもりでいたんだ。それなのに、岡野がなかなか行動に移さないでいつまでもだらだらしてるから……。うっかりフライングしてしまったじゃないか」
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