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プロローグ
松村優奈は、握りしめた拳をわなわなと震わせ、怪訝な表情で日菜乃を見つめる。
「ちょっと待ってよ……そんなこと聞いてないんだけど!」
日菜乃は困ったように笑いながら首を傾げた。
「うーんと……ごめんね。言ってなかったかも?」
「"かも"じゃないわよ! 聞いてないし、あんたは言ってない!」
日曜日の昼間のカフェは、ランチ目当ての客で賑わっていた。もちろん二人の前にも、パスタっサラダ、スープ、フルーツティーが並んでいる。
しかし平和な店内に優奈の叫び声が響き渡り、お客のほとんどが二人に視線を向けた。
「えっと、優奈ちゃん、落ち着いて」
頭を掻きながら取り乱す優奈を、日菜乃は囁くような声でなだめようとしたが、その声は全く彼女の耳には届いていなかった。
「落ち着いていられるわけないじゃない! 日菜乃を"都合の良い女"扱いしていた先輩とようやく別れたのが半年前。お互い忙しくてなかなか会う時間が取れずにいたら、いきなり付き合って半年の彼氏がいるっておかしくない⁈」
「ご、ごめんね! 私も報告するべきだったんだけど、なんかタイミング逃しちゃって……」
「で、相手はどんな男なわけ?」
「……会社の同期……かな?」
「前回会った日の翌日に『別れた』って連絡は受けた。付き合い始めたのはそれから何日後?」
「えっと……その翌日?」
「はぁっ⁈ ということは丸々半年秘密にしてたってことじゃない!」
「わ、私もね、まさかの展開で……でもなんか気付いたら告白されてたっていうか……私もいいかなぁみたいな……」
「ぎゃー! そんな幸せ報告いらんわ! なぜなら私はおひとり様だから!」
すると優奈は何かを思い立ったようにテーブルの上に置かれていたスマホを手に取る。
「そうよ。なんで思いつかなかったんだろう」
「優奈ちゃん? どうしたの?」
「決めた。合コン待ちなんかしてたら、あっという間に婚期を逃すに決まってる。それなら婚活アプリに登録して、夏が終わるまでに彼氏を見つけて、それでもって一年以内に結婚してやるんだから!」
そう言い放った優奈は、右手でパスタ、左手でスマホを操作しながらニヤッと笑った。
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