6 デザート追加

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6 デザート追加

 穏やかな空気が流れ始めたその時、日菜乃の視線がキョロキョロ動き、何やら考え事を始めた。それから下を向いたかと思うと、意を決したように顔を上げる。 「あのね、優奈ちゃん。実はちょっと話したいことがあって」  キラキラした瞳、少し上擦(うわず)った声、荒くなった鼻息ーー優奈はゴクリと唾を呑み込んだ。これは何よりも恐れていたことの前兆に違いない。 「ま、まさか……」  日菜乃は頬を赤く染めてにっこりと微笑む。 「彼からプロポーズされちゃった」  すると優奈は目を閉じて両手で耳を塞ぐ。 「聞こえない聞こえない、何も聞こえない」 「思い切り聞こえてるじゃない」 「……いつよ? また長いこと黙っていたわけ?」 「ううん、まだ言われたばかり」 「だからいつ?」 「昨日の夜。だから優奈ちゃんに一番に報告したくて」 「な、なによ! この間は半年も黙っていたくせに、今度は一番⁈ 嫌がらせ⁈」 「絶対にそう言われると思ったんだよね。でも違うよ。私だって今日優奈ちゃんにこんな話をされるとは思っていなかったし」 「うっ、確かにそうだけど」 「前の彼と別れる時にいっぱい優奈ちゃんに相談したよね。でも……別に惚気とかではないんだけど、新しい彼とはあまりそういうのがなくて話しそびれたっていうのもあるの」 「なるほど。それだけ充実してたわけね」  日菜乃は嬉しそうな笑顔で頷いた。そこからは幸せオーラが滲み出ている。  彼女に幸せになって欲しくて、あのダメ男と別れさせたかったーー自分が日菜乃の一番でいたかったというのもあるけど。  今の日菜乃は本当に幸せそうで、水を差すようなことは言いたくない。 「日菜乃にとって一番大切な人が出来たのなら祝福しないとね。おめでとう!」 「うーん、それはちょっと違うな」 「えっ?」 「もちろん大切だよ。でも……それはみんなそうかなって。家族も友達も彼氏も。私が大好きな人は、みんな大切な人だよ。もちろん優奈ちゃんもね」 「日菜乃……」  優奈がどんなに毒舌を吐いたって、怯むことなくついて来てくれた大切な友人。いつまでも仲良くしたいのは優奈も同じだった。 「よし、今度は日菜乃の話を聞こうじゃないの! デザートセット追加で!」 「優奈ちゃん……!」  二人は再びメニューを開き、デザートセットのページを隅から隅までじっくり眺めていく。  優奈の結婚を目指しての夏は終わった。  そして秋からは結婚相談所に行くことを決意するのだった。
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