真堂家の双子

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真堂家の双子

 真堂(しんどう)家の双子、真堂(みどり)と真堂(つばさ)は、あらゆる意味で有名だ。  まず、双子でありながら二人は全く似ていなかった。二卵生の双子である彼らは、父親と母親の遺伝子をそれぞれに受け継いだらしい。兄の翠はΩの母親に、弟の翼はαの父親にどことなく似ているのだ。両者ともにタイプの異なる美形であり、二人はとにかく人の目を引いた。  また、彼らは第二の(バース)性も異なっていた。翠はβ、翼はα。両親はαとΩだが、βが生まれる確率も取り立てて低いわけではない。  一家で一人だけβという結果になった翠に対し、期待外れだと悪し様に言う者もいたようだが、彼自身を知れば知るほど口さがない者は減っていったという。  全ての分野において高い能力を有するαの弟に引けを取らぬほど、兄の翠も優秀だった。また、見目の良い者が多いΩの中でも抜きん出た可憐さだと称えられる母譲りの美貌もある。持ち前の明朗さも合わさり、βであることが信じられないと驚かれるのが常のようだった。  均整のとれた大柄な体に精悍な顔立ちをしている翼と、体躯こそ平均的だがどこか中性的な愛らしさを持つ翠。そんな二人が並んでいると、一気に場が華やかになる。彼ら双子が行動をともにする姿は、いつの時も周囲の憧れの的だった。  その上、彼らは資産家の息子である。  第二の性についての研究および製薬においてトップを独走している真堂財閥──その経営者の血筋に生まれた翠と翼は、将来を約束されているも同然の身の上だ。しかも、幼い頃から現在に至るまで、二人の仲は非常に良い。そのため、後継者争いなどが起こる気配もなく、いずれは彼ら双子が揃って会社を率いていくのだろうと周囲の誰もが考えていた。  しかし、順風満帆だった双子たちに、一つだけ問題が起こる。大学生活が半分ほど過ぎた頃、翠が大学に通えなくなってしまったのだ。  理由は、日光アレルギー。  全く外に出られないというわけでもないようだが、彼はそれを機に家から出なくなってしまった。外出は必要最低限に止め、リモートを駆使した日々を送るようになる。授業も就職活動も、全て自室で完結させてしまった。  就職先は真堂財閥傘下の製薬会社なので、家柄のおかげで成り立っている生活ではあるだろう。だが、病を患い治療中であることをカバーするほどの優秀さを見せ、遠隔勤務であっても支障なく仕事をこなせているためか、関係者からは文句の一つも出ていないらしい。  弟の翼はそんな兄をひどく心配し、同じ会社に就職していた。何かあった時は片割れのフォローをしようと考えているそうだが、今のところ翠の仕事ぶりに問題はないようで、逆に鬱陶しがられているという噂だ。  なかなか兄離れできない翼には、家柄の良い令息にありがちな縁談話が複数持ち込まれていた。しかし、当人にその気はないらしく、これまでの全ての縁談を断っている。そこでも、俺の世話を理由にするんじゃない、と兄から文句が出ているとかどうとか。なお、翠への縁談話は、本人が病を理由にお断りを入れているとのことだった。  彼らの両親は、息子たちの好きにさせると明言している。運命の番として結ばれた自分たちの実体験があるためなのか、家同士の繋がりなどは全く重要視していないようだ。寧ろ、αの翼に運命のΩが現れることを望んでいるらしい。  翠と翼、ともに二十五歳。  彼らについての不満をあえて挙げるとすれば、麗しい双子が並び立つ場面に出くわすことがほとんどなくなったことだろう。そのことだけが、皆にひどく惜しまれていた。  ──以上が、世間に周知されている真堂家の双子(自分たち)の情報である。  だが、ここには幾つかの嘘が散りばめられていた。  翠の日光アレルギーは一時的なもので既に完治しているし、翼は兄の世話をするために縁談を断っているのではない。更にいえば、両親はαの息子に運命のΩが現れることを望んでいるわけではなかった。  そして、世には出せない大きな秘密が一つ。
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