行くべきか、行かざるべきか考えよう

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 何度目かもわからない夜を迎えた頃、パエトンは東の東の地の果てへと辿り着いた。 地の果てに在りしは太陽のように光り輝く宮殿。円柱と円柱の間を通り抜け、星座の描かれた銀の門を開けると、そこは玉座の間だった。 その最奥、宝石を散りばめたように輝く玉座には男が座していた。金髪碧眼で筋骨隆々とした逞しく美しい男を前にパエトンは思わずに(こうべ)を垂れて蹲ってしまう。 その男こそ、太陽神ヘリオス。パエトンの父親である。  太陽神ヘリオスはパエトンを一瞥し、(おもむろ)に口を開いた。 「よくぞ来た、我が息子パエトンよ。立ち上がり、その顔をよく見せておくれ」 パエトンはスッと立ち上がり、その顔を太陽神ヘリオスに(しか)と見せつけた。太陽神ヘリオスは自分と愛した妻クリュメネとよく似た顔を見て感慨に耽るのであった。 いつも、太陽神ヘリオスが太陽の馬車で蒼穹を駆ける時にパエトンの顔こそ見ているが、遠くから見下ろしている上に一瞬のみのこと。 こうしてじっくりと顔を見るのは初めてである。  太陽神ヘリオスは玉座よりスッと立ち上がり、パエトンの元へと寄り優しく抱擁をした。 「その美しい黒髪、確かにクリュメネのものだ」 「パパ…… いえ、父上…… お会いしとうございました」 「余もだ。だが、太陽神の仕事は一日たりとも休めないもの。寂しい思いをさせてすまなかった。ところで、何故に余の元へと訪ねて来たのかな? それ程までにこの父を希求していたと言うのかね?」 「父上、俺はゼウスの息子エパポスやその友人達から『お前は神の子ではない』と侮辱を受けました。母も嘘つきであると侮辱を受けております」 太陽神ヘリオスは首を横に降った。 「許されないことであるな。お前はパエトン! この太陽神ヘリオスとクリュメネとの間に生まれた神の子であるぞ! お前の母クリュメネが言うことも全てが真実! その証拠を示すために、何でも願いを聞いてやろう」 「ん? 今、何でもと言いましたよね?」 「ああ。ステュクス川にかけて約束しよう。神は決して約束を(たが)えることはない」 ステュクス川。地の底冥界を流れる川のこと、ティタン巨神族の大河女神ステュクスが川となったもので、この川にかけた願いや約束は神々であっても取り消すことは出来ない。 もし、違えることがあれば一年間の仮死状態に陥り、この後更に九年間の神々の座から追放されてしまう。 本来、神に「死」は存在しないのだが、唯一の例外としてステュクス川との約束を違えた時のみ「死」が訪れるのである。 パエトンの頭の中に雷霆が走った。エパポスや友人達を一気に見返す方法が閃いたのである。
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