1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
【わたし】
夏の終わり、わたしは長い旅路の果てに、小さな海岸に辿り着いた。
まるで今迄の人生の様に、どこまでも流されるかと思った。
海に面したその公園には人口の砂浜があって、海側にはそこそこ高い防波堤がある。その下の何と言うのか・・消波ブロックが敷かれていて、わたしはそこに引っかかった。
つまり死体として。
橋の上で、男に奥さんとの離婚を迫ったら突き落とされた。
わたしは川で溺れて(多分落ちた時、頭を打って)死んだ。
どんぶらことしこたま流されて、河口から海に出て、潮に乗り、岸に近づき、ブロックに引っかかった。
日頃の行いが良かったから。
いや、単にそういう潮の流れだったから。
はあ。
川の中で急に死んだからか、魂は橋で地縛霊にならず、体に残ったらしい。
ちょっと嫌かも。
さっきから頭の後ろをこつんこつんとプラスチックの空きボトルが叩いて来る。
波で自分の体とボトルは同じ向きに揺られているから、ずっと当たり続けている。
死体だから痛みも無いけど。多分あちこち、既に酷いことに・・なってる・・。
「水死体は酷いことになる」って、よく刑事ドラマで言うよね・・。やだなあ。
早く誰か気付いて・・・。
そこは、近所の人が散歩に来るが、高い防波堤の下は死角になるのだろう。誰も気が付かない。
近くにいるのに。
ドラマだとわんこが吠えてすぐ見つかるのに。
わたしは、もともと、存在感が薄かった。職場でも何もしてなくても気配が消えていた。死体じゃより分からないかも知れない。ははは。
こんなわたしが、誰かの特別になろうなどと思わなければ良かったのか。
最初は、そう思っていた。
分を弁える。
そう思っていたんだ。
思っていたんだけど・・・。
流れ着いてから、随分時間が経った。
このまま見つけてもらえない?
そんな馬鹿な。
誰か。
誰か気付いて。
だれか。
ああ。もう時間だ。
魂が、あちらに呼ばれている・・。
だれか・・・。
最初のコメントを投稿しよう!