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すべての始まり
赤い花が植わっている植栽に小さな魔法陣を張っておく。計画に入れていたうちの最後の一つだ。城中につける作業ももう終わり。あとはタイミングを見計らうだけ。これだけ魔法陣を張っておけば……大丈夫でしょう。
「またあなたは何をそんな植木のそばでこそこそしてるの?」
「お姉ちゃん!」
すぐに魔法陣を見えなくする魔法をかけておく。こうすれば見られることも勘付かれることもない。姉のリリアは勘の鋭いから妹の私は大変だ。薄い黄色にウェーブがかかった長髪を豊かに流し、青色の目で私のことを睨みつけて、ため息をつく。
「最近お父様の仕事も手伝わないで城の中で何してるの。わかってるのよ? ラリアが仕事もろくにせずに城のあちこちに行って『何か』してること」
姉とは目の色も髪の色も違う私は、紫の瞳で睨み返し、ストレートの黄色い髪を耳にかけた。
「自分の家である城を散策して何か問題でもある?」
しばらく私の目を見てきて、姉はサッと目を逸らした。
「そんな目で睨んでこないでよ、まるであの子に睨まれてるみたいじゃない」
「知らない。後から生まれたのはあっちでしょ」
「ラリアはああいえばこういうんだから。何かやっている件も、真実を言う暴露薬でもお茶に混ぜないとだめかしら? そんなこと、したくないんだけど」
「冗談じゃない。隠していることなんて何もないって、おねーちゃん」
遠くの方から足音が聞こえた。庭の石畳をパタパタと元気よく走る音がだんだん近づいてくる。
「お母さーん!」
紫の丸い目が私の目と合わさった。
「あっ、叔母さんも!」
六歳の姪っ子が母親の足にしがみつく。ふわりと揺れた黄色の二つ結びが風に靡いた。その手には庭に咲いているものだろう二本の花が握られている。
「お母さん、これあげる! お庭で摘んできたの。きれいでしょ?」
花びらの多い黄色の花だった。庭には赤や黄色だけでなく魔法で彩色した紫や青もあるけれど、この子は自然の花の色が好きらしい。
「とってもきれいね。ありがとう、ガリース」
瞳の紫色がさっきよりも淡い色に変わっていき、にっこりと笑う。ガリースは母親から頭を撫でられ終わると、もう一本を向けてきた。私に。
「はい、叔母さんも!」
目の前に、同じ黄色の花。
「ありがとう、ガリースちゃん」
私が受け取るとまたガリースは嬉しそうに笑った。笑窪ができて、満開に咲いた花のようだ。
「ラリア、悪いけどガリースと遊んでいてくれる?」
「え?」
そういう姉はもうガリースと私を残して立ち去ろうとしている。
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