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「『えええ!? 何でこっちに来るの!?』」
「『うるさいっ、仮にも夫なら妻の役に立て!! 私が逃げる時間を稼げっ!!』」
イノーラは情けない悲鳴を上げるクロード王子の背後に回り込み、ココに向かって思いっきり突き飛ばした。
「『ぎゃんっ!?』」
潰れた蛙のように倒れる夫をしり目に、イノーラは細道の先へ消えた。
即座にイノーラを追いかけてエミリオさんが駆けていく。
ブラッドさんは地面に伏して痙攣しているクロード王子を氷点下の目で眺めるばかりで、助け起こそうとはしなかった。
「………………」
路地裏を乾いた風が一つ吹き抜ける。
「……話には聞いてたけど、イノーラって本当に……うん。君の実の妹を悪く言うのは良くないよね。止めよう」
イノーラが消えた細道を見つめながら、ノエル様は私を気遣って続く言葉を飲み込んでくれた。
「すみません……」
「いや、セラが謝ることじゃないから」
少しして、エミリオさんは丸太でも担ぐようにイノーラを肩に担いで戻ってきた。
イノーラが暴れたので気絶させたのだろう。無理もない処置である。
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