1960人が本棚に入れています
本棚に追加
「『大変お騒がせしました』」
イノーラを担いだまま、エミリオさんはぺこっと頭を下げた。
「『いえ、お疲れ様です。本当に……お疲れ様です……』」
ノエル様の声には深い同情が籠っていた。
「『労いのお言葉ありがとうございます。皆様のご協力のおかげでようやく馬鹿二人を捕まえることができました。リュオン様からはロドリー国王陛下直筆の信書もいただけましたし、これでエンドリーネ嬢に余計な手出しをすることなく大手を振ってレアノールに帰れます。本当にありがとうございました。それでは失礼しますね』」
爽やかに微笑み、エミリオさんはイノーラを担いで歩き去った。
――元気で。
意識のないイノーラを見つめ、私は心のうちで呟いた。
「『酷いよイノーラ。帰ったら父上と母上に言いつけてやるっ。ねえセレスティア、やっぱり僕は君と結婚するべきだったんだよ! 君こそが僕の運命の人だったのに、イノーラに騙されてしまったんだ、くそう!』」
別れの余韻に浸る暇もなく、いつの間にか復活していたクロード王子が話しかけてきた。
地面に突き飛ばされたせいで傷だらけだが、元気な証拠に彼は短い足で地団太を踏んだ。
「『あの悪女め! いやっ、いまからでも遅くない! セレスティア、僕の愛人になっ――』」
台詞を言い終わるより早く、クロード王子の眼前に巨大な魔法陣が出現した。
こちらは激しい業火を生み出す魔法陣だ。この炎に焼かれれば骨も残るまい。
最初のコメントを投稿しよう!