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くるぶしの高さまで生えた草が風に揺れて私の足元をくすぐる。
澄み渡った空には雲が浮かび、夏の強い日差しは等しく万物に降り注ぐ。
ラスファルの街の外、北側に広がる草原である。
ドロシーは世界最強の魔女だ。
万が一を考えた場合、街中で召喚するのは危険すぎる。
だからリュオンは草木以外に何もなく、街から遠く離れたこの草原をドロシーの召喚場所として選んだ。
けれど、戦闘だけは絶対に回避しなければならない。
セラの補助があっても勝てるかどうかわからない、ドロシーは世にいる魔女とは次元が違う。リュオンはそう言っていた。
それでも彼は必要とあれば挑むだろう。私のために三頭の魔獣と戦ったときのように。
真っ赤な血が滲んだ彼の左腕を思い出して全身に震えが走る。もう二度とあんな悲惨な光景は見たくない。
――大丈夫、アマンダさんは良い人だった。彼女がドロシーなら、話せばきっとわかってくれるはず。
「じゃあ破るわね」
自分に言い聞かせることで不安を振り払い、私は紙片の端に指をかけた。
リュオンがどれだけ力を込めても破れなかった紙片はあっさり破れた。
ぶわり、と。
まるで意思を持った生き物のように、魔法陣は二つに分かれた紙片から分離して虚空に浮いた。
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