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「あら、あんなに辛そうだったのに、また人間やりたくなったの? 猫のほうが気楽でいいでしょ? いや絶対猫のほうがいいって。可愛いし。もふもふだし。癒されるし――」
「いや、俺は人間がいい。どんなに辛いことや悲しいことがあっても、人間でいたいんだ」
頭を下げ続けるユリウス様をドロシーは数秒、表情もなく無言で眺めた。
固唾を飲んで見守っていると、ドロシーは不意に微笑んだ。
「……自分の意思で誘いに乗っておいて被害者面するなら虫にでも変えてやろうと思ってたけど。あなたは一度もそんな素振りを見せなかったわね。いいわ、合格。望み通り魔法を解いてあげる」
ドロシーは小さな右手を伸ばしてユリウス様の頭に触れた。
ユリウス様の全身が淡く白い光に包まれる。
ドロシーが優しくユリウス様の頭を撫でると、白い光には亀裂が入り、壊れ、ボロボロと崩れ落ちていった。
零れ落ちた白い光の破片はきらめく粉となり、地面に触れる前に消えた。
「はい終わり。これでもう猫にはならないわ」
数秒してドロシーは手を離した。
「……ありがとう」
ユリウス様は自分の右手を見つめた。
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