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胸にこみ上げるものがあるらしく、ぐっと右手を握って目を閉じる。
「良かったね、兄さん」
ノエル様がユリウス様の肩を叩いて笑った。
兄弟は笑い合い、私の隣でリュオンも安堵の表情を浮かべている。
――ああ、良かった。
私は穏やかな気持ちで微笑み、リュオンと手を繋いだままドロシーに近づいた。
「お願いを聞いてくれてありがとう、ドロシーさん。やっぱりあなたはいい人だったのね――」
「それはどうかなあ?」
ドロシーの口の両端がつり上がり、彼女の頭上に複数の魔法陣が浮かんだ。
えっ――
目に映るものが信じられなかった。
魔法を使うには集中力がいる。
どんな魔女であっても一度に使える魔法は一つだけのはずなのに、ドロシーの頭上には同時に三つの異なる魔法陣が出現し、間髪入れずに視界が真っ白に染まった。
急に全身から力が抜けて、私がその場に座り込んでしまうよりも早く。
――バシンッ!!
例えるなら平手打ちでもしたかのような音が炸裂し、私の手を掴んでいたリュオンの手の感覚が消失した。
「――!?」
リュオン!?
叫びたかったけれど、言葉は声にならなかった。
「――捕まえた」
泥濘の底から響くような、ねっとりとした少女の声が耳元で聞こえる。
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