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「本当に美味しかったわ、ありがとう」
大満足で店を出た後、私は通りの端で立ち止まってリュオンに礼を言った。
「今日は会えて良かった。私は職業斡旋所に行くから、また機会があれば――」
「待て、セレスティア」
セラと呼んでほしいと言ったのに、リュオンはいまこのときだけ私を本名で呼び、強制的に別れの言葉を打ち切らせて自分に注目させた。
「まだ本当の意味でおれの質問に答えてない。レアノールの伯爵令嬢で王子の婚約者『だった』と言ったよな? 家が没落して職を求めに来たのか? それにしたって、わざわざ海を越えて、遠く離れたロドリーまで? どう考えてもおかしいだろう。一体何があったんだ?」
「……。……だから、色々あったのよ……」
過去のことは話したくない。
どうしたって自分が惨めだから。
唇を噛んで俯くと、リュオンはじれったそうに私の手を掴んだ。
「話してくれ。おれはセラの力になりたいんだ」
リュオンは射るような眼差しで訴えた。
掴まれた手から彼の温もりが伝わってきて、胸の奥がぎゅっとなる。
こんなに真剣に私の話に耳を傾けようとしてくれた人は初めてだ。
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