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1章 Fly Me To The Moon  私は一ノ瀬茜。  一見、どこにでもいる普通の女子高生だ。  ある日、おばあちゃんの形見の懐中時計を手にした時から、異世界のトラブルに巻き込まれることになった。  最初は、異世界をめぐる暗殺事件。  その事件をめぐって親友の杏美ちゃんの命が脅かされることになった。  私は異世界に渡り、裏で糸を引いていた悪い奴、リュウセイという男を倒した。  まさか、それが真の事件の始まりだったとはこの時は誰も知りえなかった。  リュセイを倒した事で、私は未来の『秩序の加護者』の恨みを買ってしまう。  未来の『秩序の加護者』は『ハクア』と名乗り、この世界を混沌の世に変えようとした。愛するひと、愛する故郷を奪われた恨みを果たすために。  だが、ハクアは優しき心を取り戻し、秩序を無視した自らの存在を消し去ることを望む。  『秩序の加護者』として覚醒した結月はその願いを聞き入れ、ハクアの魂を消し去った。  ..いや、彼の魂は最愛の女性(ひと)リンのもとへ帰ったのだ。  白亜事変は現世と異世界の時の歪みを大きくしてしまった。  現世でのほんの数日が、異世界での6年の歳月となっていたのだ。  事件の解決後、私は間を置かずに異世界へ足を運んだ。  これ以上現世と異世界の時間のズレが起きてしまうのはマジで勘弁。  つぎ異世界に行ったら、ラヴィエがおばあちゃんになっていたなんて悲しいもの。  そう思うと私は異世界アーリーに続く「時の狭間」を開くのだ。  そして.. 私は今、「運命の祠」にいる。 —異世界 フェルナン国 運命の祠—  「いったいぜんたいどういうことなのよ! シャーレ! 」  「そんなに興奮するでない。シワが増えるぞ」  「シ、シワ? そんなシワができるような年齢じゃないわ! ってそんな事どうでもいいわ。何だって元に戻っているのよ」  「元に戻る? 」  「そうよ! 私が王都フェルナンの大門前に辿り着いた時、直ぐに気が付いたよ。破壊されたはずのシャーレとクローズの像が元のとおりになっていたから。シャーレ、これって時間戻ったよね」  「ははは、異なことを。時間が戻らない事は「時」を司るお前が一番知っておろうが」  「そ、そうだけどさ.. じゃあ、私の早とちり? 」  さっきまで笑いながら私を小馬鹿にしていたシャーレが突然黙りこくって空を見上げた。  すると、はしゃいでいた耳と尻尾がキュと垂れ下がった。  「いいや、アカネ.. この世界では誰も白亜など知らんな。しかし時間が戻ることはない.. これは..消されたのだ」  「消された? 『消された』って言ったの? 」  「アカネよ、今、私はお前の事を見て、ハクアとの闘いを思い出した。どうやら強制的に何かをされたようだな。これはまた厄介なことになるぞ.. アカネ」  「どういうこと? 」 —シャーレは耳を下げながら説明してくれた。  「アカネ、結月が『秩序の加護者』に覚醒した瞬間を覚えているか? 」  「うん。あれはツグミの癒しの力が結月の能力を借りて、この星を包みこんだ瞬間だよね」  「そうだ。あの時、世界中の暗欄眼も治癒され、結月と全ての暗欄眼がひとつに繋がった。いわば、この星自体が巨大な『審判の瞳』となったのだ。そしてな、結月はこう願ったのだ。『もう誰も悲しまない世界になってほしい』とな」  「そう.. そんな事を言っていたの.. 結月らしい願いだわ」  「アホか、アカネ! 世界から悲しみがなくなるわけはないだろ。悲しみというのは感情のひとつだ。親や兄弟、恋人、自分の身近な人が死ぬだけで悲しみは生まれる。つまり悲しみが無い世界というのは、『世界の否定』だ。結月は悲しみのある世界を否定してしまったのだ」  「で、でも.. でもさ、あの時は何も起きなかったじゃん」  「原因はアカネ、お前の存在だ。お前はもともと違う世界の人間だ。お前の存在がつっかえ棒となっていて天秤は釣り合わなかったのだ」  「じゃあ、また元の時間に戻されたならハクアとの闘いがまた始まるの? 」  「それはない。『審判の瞳』は律儀にも結月の願いをきっちり叶えおった。ライシャの恋人リンや惑星が消えた原因は何だったか覚えているだろ? 」  「うん.. 私が『始まりの法魔』リュウセイを消し去ったから、未来の『法魔の加護者』が消えてしまったんだ」  「だが、あの闘いの末、新たに『法魔の加護者』が生まれただろ」  「あ.. ツグミが」  「そうだ。時間が戻ったとしても『確定した運命』というのは変わらない事が多い。今も何処かにいるツグミは『始まりの法魔』になる運命だ。つまり未来の『法魔の加護者』が消え去ることはない。だからライシャが恨みを持ってこの世界に来たという事実も消えている」  「じゃ、もしかして全て解決ってことじゃない?! やったぁ! 」  「お前の頭は単純でいいのう。お前、もう私が言った事を忘れているな? 既に『厄介な事』は始まっているのだぞ。私はあまり運命に口を挟みたくはない。だが、これは見過ごすことはできないな.. 」  シャーレは深く深呼吸すると、空を見つめながら運命を探っていた。  そして、私に驚きの指示を出した。  「アカネ、お前はシエラと現世に戻ってある人物を探すのだ」  「シエラと一緒に? 」  「そうだ。そ奴は闇の炎を使う『魔の者』じゃ」  「魔の者!? 」  シャーレは眉毛と耳を下げると頷いた。  ついに来てしまった。  異世界定番「魔の者」  これって敵確定じゃない!?
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