母の胸の香り

1/1
前へ
/75ページ
次へ

母の胸の香り

2章 永遠の凍結  私は「時の加護者」アカネ。  シャーレにシェクタ国で起きた忌まわしい出来事を教えてもらったソルケ。アルデン王の愚かな考えによってブレス王子の魂が穢れてしまっただなんて..しかしこの事実を知ったソルケは冷静でいられるのかな?きっとソルケはブレス王子に特別な感情を持っていたはず。何千年も孤独だった彼女の前に現れた王子様だったに違いないのだから。 —フェルナン国 運命の祠—  「ソルケよ、これは消された時間で起きた事だ。それを忘れるな。私がいま語った事は事実であって事実ではない。ただ『加護者の時』と『確定した運命』だけは消すことはできなかっただけだ」  「どういうことですか?」  「 ..つまりだな、おおよその未来はこれから作り上げられていくという事だ。そういう意味ではブレスに魔人が融合した事は幸運ともいえる」  「幸運だと? そんなものではない!! 魔人のせいであの優しいブレスが血に染まっているのだ。あなたは、いつもそうやって高みから—」  「まぁ、落ち着け。良いか、魔人が融合した事でブレスは生きている。肉体もブレスのままなのだ。これは幸運だ。予想していなかったのはアルデン王の魂だ」  「おのれ、アルデン王.. 生きていればこの手で消し去ってやるものを」  「ソルケ、お前に運命を告げる。お前はそれを聞く覚悟があるか?」  「 ..はい 」  ソルケは膝を地につけ、シャーレに敬意を表し返事をした。  〖 時は全ての想いまでも止めてしまう。純白の灰の向こうに真実を見るだろう 〗  「真実..」  「ソルケ、お前は既に力を持つ身だ。お前にこれ以上の恩恵が与えられるかはわからない。だが、未来は、お前次第だ」  「わかりました」  膝を立てたソルケは去り際にクローズのもとへ行きひとこと言った。  「クローズ、すまなかった。私はお前を見誤っていた。お前は、きっと私よりも高みにいるのだな。どうかシャーレ様を頼む」  「無論だ」  ソルケは乾いた笑みを浮かべると森の中へ消えて行った。  「シャーレ様、よろしかったのですか? 」  「 ..ああ、娘の運命に少しでも意味を持たせてあげたかった。私は、親として何もしてあげられなかったからな」  クローズは何となくわかった.. ソルケに運命を告げる時、シャーレの中に微かな悲しみを見た。おそらく、運命の先にあるのは.. ***  そして、カイト国から「運命の祠」に帰った私はすぐに四国会談で話し合われた内容について報告をした。  「ほぉ、これは意外じゃな。まさか、ナンパヒ島の事を知った上で、魔人を島へ連れていく事を、四国の首脳が許すとはな。レオ国のレイフュがいたのは幸運だったな。太陽の国のレイフュの言葉ならば猜疑心の塊であるクリスティアナも多少は素直に聞くからな。だが、アカネよ、シドの羽根とはよく思いついた」  「これは、失われた時の中でシド自身が教えてくれた事なの。このシドの羽根が同族のセイレーンの居所を指し示してくれるってね」  「なるほど、つまりは羽根がナンパヒ島を見つけてくれるというわけか。だが、それでも上陸出来るかはわからないな。海のプーフィス、空のレフィスの砦を越えるのは難しいぞ。 ....どうした、ローキ? 」  ローキが水色のシドの羽根を見つめながら黙りこくっていた。  『アカネ様、これは本当に光鳥シドの羽根ですか? 』  「そうよ。凄く綺麗でしょ」  『はい。しかし..驚くのはこの羽根の気配。とても懐かしい感覚です。この羽根の近くにいるだけで母の胸に抱かれているような気持になります』  「母親などいないくせにか」  またシャーレが意地悪な事をいった。  『恐れながら、私たちにとって「魔界」こそ母であります』  「ふんっ」とシャーレは鼻から大きく息を吐きだした。  『恐れながら、今しばらくこの羽根を.. いや、是非ともこの手に.. 触らせてください!是非とも! 』  いつもは冷静なローキが珍しく我を無くすほどに迫ってくる」  「え..え? え?」  「おいっ、ローキ。それ以上アカネ様を困らせると僕がお前を塵にしてやるぞ」  シエラがピリつき始めた  「ま、待って、シエラ。大丈夫だよ。 私は少しだけびっくりしただけだから」  顔を赤らめ興奮するローキの手にシドの羽根を置く。  『お、おおおおぉぉぉお。これは.. まさしく この感覚はぁああ! 』  ローキの「第三の眼」が勝手に開くと、祠の壁に映像を映し出した。それはローキの能力、三世を覗き見る力だ。  そして映し出されたのは間違いなく魔界だ。  空は紫色の雲に覆われ、大地は漆黒だ。山々の影が見えるが一点だけぼんやりと光る場所がある。  『あ、ああ見える。見えます。我が母よ』  ローキは独りごとを言う。  映像はその光へ迫っていく。近づくにつれ、光は激しさを増している。不思議な光だ。色は間違いなく闇色なのだが、とてつもなく神々しく眩しい。  そしてこの神々しい光の感触を私は良く知っていた。この光はまさに光鳥ハシルと同じ生命力にあふれる力強くも優しくあたたかい光だ。  映像がさらに近づく。そこには、鳴動する殻で覆われたひとつの卵があった。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加