船上の不利

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船上の不利

2章 永遠の凍結  私は「時の加護者」アカネ。  いよいよ私たちはカレン調査船に乗り込んでギプス港を出港した。さて、光鳥シドの羽根の気配に海獣プーフィスが先か、それとも翠のレフィスが先に現れるのだろうか?どちらにしろ私のことは覚えていないだろうし、魔人を乗せている船を簡単に通すようなことはしないだろう。考えても仕方がない。こうなったら成るように成れ! —航海2日目  (あの子たち、無事にフェルナンへ着いたかしら.. )  私は船の上の不利をハクアとの闘いで知っていた。接近戦で闘う自分とシエラに最も不利な場所が船と言える。それ故に、ラインとソックスに言伝という名目のもと、この航海から遠ざけた。  もちろん、2人は嫌がって縋りついてきたけど..  その温もりが今もまだこの腕に..  「ラインとソックスが心配ですか? 」  甲板にシエラが上がって来た。  「うん。だって私にとって2人は弟と妹だもん」  「大丈夫ですよ。『時の加護者』の恩恵を持つ2人に追いつける者など絶対にいませんから」  「そうだね」  航海2日目にもなると陸から遠く、空には水鳥の姿さえ見えなくなっていた。  「そう言えば.... クローズが言ってました。あいつ、魔人の手下と思われる魔獣と闘ったと」  「そうなの? シャーレは言ってなかったよ」  「あの方は基本、こちらから訊ねなければ答えないですから」  「そうだけど.. で、やっつけたの?」  「はい、無論、ぐちゃぐちゃの肉塊にしたそうです」  「よかった.. 見ることなくて.. 」  「気になるのはなぜ魔獣を闘わせたかです。その場にはソルケもいました。ソルケとクローズを相手に魔獣などでは歯が立たない事などわかりきっている。では、なぜ闘わせたのでしょうか」  「弱点とかを探っているとか? 」  「もちろん、それもあるでしょう。しかしその弱点を知ったとしても『法魔の加護者』の副産物であるあいつらが『加護者』やそのトパーズに勝てないのはわかりきっている。憶測ですが、僕が思う事を言ってもいいですか? 」  「うん」  「あいつらは僕らに勝てる確信があるんだ」  「でも、さっき『勝てないのはわかりきっている』って.. 」  「はい、それは今の現状です。あいつらは将来的に勝てると見込んでいる。だから僕らがどれくらいの強さかを観察して、自分が闘いを挑む時期を見計らっている。だから、あいつらは無暗に国攻めをしない。それは一重に『今』は勝てないから。僕はそう思うのです」  「じゃ、今は力を蓄えているって事? 」  「蓄える.. いいえ、力を蓄えても所詮は魔人。僕は何かもっと違う事を考えているように思うんです」  「へぇ、その『違う事』って何だろうねぇ。俺も知りたいな」  まさか!  私の耳元で囁いたのはダリと同じ右耳に6連ピアス左耳に大きな1連ピアス、そして下唇にリップピアスを付けている15歳くらいの少年だ。  シエラの拳が唸った。  「ははは。シエラさん、あんたの先制攻撃がくっそ鈍いのは、ダリの情報で知っている」  まるで空間を瞬間移動の様にジャクは宙に浮いている。  「あんた、ジャクね。私たちを待ち伏せしていたの? 」  「はははは。待ち伏せなんかしねーよ。そんな面倒くさい事するなら、こちらから行ってやるさ」  「なら、なぜやって来ない? 」  「 ....」  シエラが逆に聞き返すとジャクは黙ってしまった。  「ね、アカネ様、言ったとおりでしょ。こいつらは僕らには勝てないことを承知しているんですよ」  「う、うるせー! それよりもお前ら、どこへ向かっている? 」  「お前に教える義理なんてないだろ? それよりも家に帰れよ。あ、そうか、お前らは家の場所がわからなくなって帰れないんだっけ? 」  シエラがジャクを煽りまくる。  「きーっ! 」    〘 落ち着きなさい、ジャク。貴方は貴方がやれることをしなさい 〙  「シエラ、今、何か聞こえなかった? 」  「ええ、僕にも聞こえました」  「 ..ふぅ.... わりぃ、ドルヂェ 」  ジャクはぶつぶつと独り言を言いながら落ち着きを取り戻した。  そして、また船に降り立つと、質問を繰り返した。  「いったい何処にいくんだ? ..ん? 何か感じるな.. この気配は.. そうか、お前らルカを乗せてやがるな」  〘 〇〇〇——〇〇、——〇〇〇 〙  「また、何か聞こえる。アカネ様、わかりますか? 」  「小さい声でわからない」  「ルカに俺とダリの邪魔をさせるわけにはいかねぇ」  ジャクは指を天に向かってゆっくりと回転させ始めた。    魔法を使うつもりだ。  「船長―っ!! 全力で前進して!」  「無駄だよ。あんたらはここから進めなくなるのさ」  —リィ リィリィリリリリィ —  今まで水鳥1羽もいなかった空に大きな鳥が2匹現れる。  次の瞬間、冷鳥フロアが船に向かって冷たい咆哮をあげた!
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