塵導明を通る

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塵導明を通る

1章 Fly Me To The Moon  私は「時の加護者」アカネ。  白亜の闘いから間もなく、異世界に遊びに行くと、私はその異変に気が付いた。なぜならば王都フェルナンの破壊されたはずのシャーレとクローズの像が復元されていたからだ。理由を聞きに「運命の加護者」シャーレを訪ねると6年間が取り消されたことがわかった。さらにシエラとともに現世に放たれた魔人を探すという指令を受ける。 —フェルナン国 運命の祠—  「アカネ、シエラは私が新月の夜にそちらへ送ろう」  「送る? いや、いいよ。私が直接迎えに来るから」  その時、シャーレから『ふっ』という息をもらす音が聞こえる。その表情は『素人はこれだから.. 』と明らかに小馬鹿にしているように見て取れた。  「なによ? 」  「アカネよ。3主のひとりの私ならともかくトパーズのシエラが現世に行けば、直ぐに身体は粉微塵になってしまうぞ。まぁ、魂は塵導明からこの世界に帰ってくるけどな」  「塵導明? 」  「塵導明とは異世界どうしを繋ぐ空気穴みたいなものだ。そこを通じて、それぞれの力の調和を計っているのだ」  「ふぅん。でも、粉微塵になるんじゃ、シエラを呼ぶわけにはいかないよ」  「大丈夫、シエラはお前と一緒になるんだから」  「今、シレっと変な事言ったね。どういうこと? 」  「もともとシエラの魂の根源はお前のエネルギーだ。つまり現世の中でお前の体の中に宿っていれば、シエラは意識を保ったまま行動を共にできるのだ」  「えっ、嫌だよ、そんなの。ずっとシエラに私生活を全部見られることになるじゃん」  「僕は別にいいけどね」  シエラがひょっこり現れた。  話は全部聞いていたようだ。  「シエラが良くても私は嫌なの! 絶対に嫌! 」  「え.. そんなに否定されると悲しいです.. 」  「 ..ん んんん.. 」  「アカネ、お前が嫌だろうが何だろうが、どのみちシエラの力が必要になるんだ。あきらめろ! 」  「だから、なんでよ!? 」  「普通の女子高生が『魔の者』の気配を感じる事ができるか? お前は現世ではただの女子高生なのだろ? それができるのはトパーズのシエラなのだ」  シエラは何故か鼻腔を広げドヤ顔している。  しかし、シャーレの言う通り、私はそれを渋々受け入れるしかなかった。  「魔の者」つまり「魔人」は常に自ら魔素を放出している。現世で放出された魔素は塵導明から異世界へ帰ってくる。だが満月という蓋が塵導明を塞ぐ夜、逃げ場を無くした魔素は炎となり暴発してしまうのだ。 *** —初大駅前交差点—  「ちょっと、シエラ、あんた3日前の夜、私の身体に入ってから、何もやってないよね」  〖 何言っているんですか。この世界の「ぱんけぇき」とか「ぱふぇ」など味わってるじゃないですか 〗  「それ、あんたの欲望満たしているだけじゃないの! ちょっとは『魔人』っていうのを探知してよ」  〖 はっはっはっはっは、嫌だなぁ、無理言わないでくださいよ。こんな広い世界でたった一人の気配を探知するのなんて無茶な話ですよ。せめてその魔素が大量に留まっている状態ならまだしも、塵導明から常に放出しているんじゃ感知などできないですよ〗  「留まるって.. 留まったら暴発するんでしょ?そうなったら大惨事になるってシャーレが言ってたじゃん」  〖 大丈夫ですよ。このシエラには考えがあるの..—— あっ! 危ない! アカネ様!! 〗  その時、無理なスピードでUターンをしようとしたミキサー車がバランスを崩して信号待ちをしている私たちに向かって突っ込んできた。  昼間の駅近くの信号だ。  周りには学校の生徒やサラリーマン、子供を乗せた電チャリママさん達がいる。  金属の大きな音とブレーキ音、誰ともわからない悲鳴!  ミキサー車は群衆の中へ!! ——ガギャガギャギギガガン!!  まるで処刑魔獣トリュテスクローの叫びのようだと思った。  そうだ。私は「思った」だけだった。  それなのに、なぜ私はこんなことをしているのだろうか?  「大丈夫です。アカネ様。僕がこのでかい怪物を止めましたので」  プシューと音を鳴らしながらあたりに水蒸気が沸きあがる。  目線が高い。自分の手がスラっといつもより長く白い。  その手がミキサー車をがっしりと抑え込んでいる。  ふわりと舞い上がった髪の毛が顔にかかる。  白い。  車に反射に映りこむ煌めく月色の瞳を持つ美女。  【 これって.. もしかして私? 】  「はい。僕が力を解放してお身体をお借りしましたので、こんなお姿に.. 」  周りがざわつき、スマホを取る人の姿が見えた。  【 シエラ、急いでここから立ち去らなきゃ! 急いで!! 】  「はい! 」  バゴンとアスファルトを蹴り叩く音がすると、一瞬で近くのビルの屋上にジャンプしていた。  ビルから下を見下ろしながら、この圧倒的な力を現世で使ってしまった戸惑いと..ごまかしようのない高揚感を感じてしまっていた。
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