葬送の神

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葬送の神

1章 Fly Me To The Moon  私は「時の加護者」アカネ。  シエラが力を解放したことで姿が多少変わった私は魔人を察知することができた。そして「時の狭間」に出口を作ると砂漠に横たわるスフィンクスの頭の上にいたのだ。 —エジプト カイロ郊外—  【ねぇ、シエラ、次はどっちにいったらいいの】  「えっと.. この辺だと思うんだけどな.. 」  シエラはより魔素の気配を探るためにギザのピラミッドへ驚異的な跳躍で登っていく。  【ちょ、ちょっと、シエラ、怖いよ】  「大丈夫ですよ。落ちるヘマなんてしませんから」  【そういうことじゃなくて、こんなに高いところまで登らなくても】  「でも、ここに登れば地形と現在地もよくわかるかなって? 」  【そっか、なるほど。で、魔人の気配はわかった? 】  「まだはっきりとはわからないです。ただ、もう少しあっちの方かなって.. 」  シエラが指さす方向はもう少し南の方角だ。  しかし、まもなく空が明るくなってきた。  私はその時、改めて気が付いた。  地球上にも時差というものがあることに。  「アカネ様、魔素が太陽のエネルギーにかき消されています。あっ、もうわかりません」  1日目は魔人を見つける事は出来なかった。  ただ、潜伏場所がエジプトという事がわかっただけでも、次回の準備につなげる事は出来る。  まずは家に帰って睡眠をとらなきゃ。明日も学校があるのだから。 ——2日目の夜は前日よりも早めにエジプトでの捜索を始める事にした。  それは私たちが「時の狭間」からエジプトへ辿り着いた瞬間だった。  【シエラ!! 】  「はい。僕も感じました。今、大きく()ぜました!! 」  魔素というかこの不快感は過去に覚えがあった。  あれはダル・ボシュンの卑劣な策略に激高したツグミに感じたものに似ている。  全身の毛穴を広げられるような陰鬱な力。  闇よりも闇色の業火だ。  「アカネ様、あっちです」  細かい場所を特定する必要はなかった。  それは半径が1kmなのか3kmなのかはまったくわからない。  ただ綺麗な円形に町がくりぬかれたように無くなっていた。  不思議な事に草木だけはそのまま、家や道路、人や動物が白い灰と化しているだけだ。  【酷い.. 全て灰になってる】  「アカネ様、これは普通の炎ではありませんね。あそこを見てください」  シエラが指さしたのは富裕層向けのマンションだった。炎はそのマンションをナイフで切るように半分だけ灰に変えている。  「ほら、アカネ様、この建物には焦げがないんです。この部分を境に灰になっています」  炎は鉄筋と外壁のコンクリートを白い灰に変えているのだ。  地面にかさばる灰の隙間から黄色い花が咲いているのが奇妙だった。  【シエラ、どう? 気配は感じる? 】  「いいえ、もう奴はいないです。自らの炎で燃えつくされたようです」  その時、後ろから声がした。  「 يا رفاق ، لا تتحركوا! 」  後ろには銃を構えた軍服をきた2人組が立っていた。  [ Don't move(動くな)! ]  もう一人の男が英語に言い直した。  【シエラ、何て言ってるのかな?】  「え? 普通に『動くな! 』と言ってますよ」  シエラは認識していないようだが、私は知っている。異世界アーリーの人間は言語能力という概念がないのだ。  日本語で話しかければ自然と日本語で話し返す。だから英語で話しかけられれば、英語で話し返すのだ。しかし、シエラには違う言語で話しているという認識がない。私にとってシエラは自動翻訳機のような存在だ。  【じゃ、早々に退散したほうがよさそうだね】  「ですね」  [ show me your hands(両手を見せながら)And turn this way slowly(ゆっくりこちらを向け)! ]  両手を横に広げながら振り向くと同時に私たちは地面を蹴った。  月空へ高く舞い上がった私たちを唖然として見上げる彼らは何かを叫んでいる。  彼らが自分の部隊に戻って私たちを古代エジプト神話の葬送の神『ヌト』と呼んでいたことは知らない事実だった。
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