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叩きつけるような大雨のなかを、狩野征也の運転するアルファロメオが、大きな赤い甲虫のごとく、ノロノロ進んでいく。ワイパーを最強にしているのに、フロントウィンドウを叩く水飛沫しか見えないから、そんなスピードしか出せないのだ。
まだ昼前なのに夕方のように暗い。ヘッドライトを点けていても雨の束が光を反射してしまう。
その役立たずのヘッドライトが、前方、少し先の、人らしきシルエットを照らした。ずいぶん前に潰れたエスニック雑貨店の、下ろされたままのシャッターに寄りかかかり、傘も差さずに雨に打たれている。
横を通り過ぎる彼の目に、痩せ細った体とうなだれた頭が見えた。両腕をだらんと垂らして立っている。ずぶ濡れだ。構わずにそのまま通り過ぎた。
通り過ぎてから、ずぶ濡れのそいつが崩れるように倒れ込んだのが、アルファロメオのサイドミラーに写った。
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