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Ⅲ.高嶺の花
高校二年に上がって、このクラスに入ったときだった。
まだ席も決まっていない状態の教室で、窓際の机に腰掛けて、足を組んでいる志田さんを見た。
うわ。あんな不真面目そうなやつがいるクラスなのか。
僕は露骨に嫌だった。小中学生時代のことが頭をよぎる。ああいう派手で不真面目な存在がいると、どこかしらのタイミングでクラスに悪影響を及ぼすものだ。教師への反抗、無駄な居残り学級会、強い派閥の結成、迫害。経験則からいくらでも語れてしまう。
そんな怪訝な表情なんてお構いなしに、僕が教室に入ってくるや否や、志田さんは大きく手を振ってきた。
「――おーい眼鏡のキミ! 一年間よろしくねー」
「あ、うん、よ、よろしく」
それが初めての会話だった。
僕が適当な席に腰を下ろすと、志田さんの横に大股開きで座っていた男が、小声風の大声で言う。
「あんな暗そうなやつにまで挨拶しなくてよくね?」
聞こえているよ。
そう言ってやりたかったが、別にそんな目くじらを立てるようなことでもない。実際問題、彼らのような軽いノリで生きている人間よりは、僕が暗いことは確かな事実である。
そんな彼の発言に対して、僕はてっきり、志田さんも同調してケタケタ笑い出すのものだと思った。しかし違った。
「いやいや! 良い人そうだよ、眼鏡の彼!」
弾けるような笑顔で、志田さんは事もなげにそう言った。驚きのあまり、ついチラリと見てしまった志田さんの顔。きっとメイクなんてしなくてもしっかり美人であろう整った顔立ち、その中でも一際目立つ猫のような目。
その瞬間、僕の中で「派手な存在」でしかなかった彼女は「高嶺の花」に昇華したのだった。
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