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Ⅵ.赤点の罠
次の実力テストが実施されたのは、その決意から二日後のことだった。
僕は意を決して名前のみを書き、白紙状態で答案を提出した。横目で見た感じ、志田さんはテスト開始早々突っ伏して眠り始めたから、まず間違いなく赤点だろう。
後は、僕と志田さんが同じく補習室に呼ばれれば、作戦成功となる。他のクラスメイトの中に赤点者が出ないことを祈るばかりだ。
――そして実力テストから、更に翌日。
テスト返しの時間に、担当教師がやけに神妙な面持ちで教室に入ってくる。そして開口一番、僕に向かってこう言った。
「……納谷くん、テストの日、どこか体調でも悪かったの?」
来た!
これは確実にテスト結果が正常じゃなかったことの表れ!
僕は答える。
「はい、ちょっと」
「そうよね、納谷くんに限って、こんな点数、取ることないよね……」
クラスがざわついた。
あの真面目な納谷が、クラスのお悩み解決箱の納谷が、先生が動揺するほどの点数を取ったのか。そんな異様な雰囲気に包まれた。
そしてテスト返しが始まり、僕の手には人生始めての0点の答案が渡されたのだった。担当教師は口元を引きつらせながら言う。
「納谷くん……当然、赤点なんだけど、体調不良ということで、今回は補習を特別に免除してもいいですよ?」
は!? いやそれは困る!!!
なんのための赤点だと思っているのか。これは僕が志田さんと話す時間を作り出すための壮大な計画なのだ。変な気を回されては困る。
「いえ、体調管理が出来ていなかった自分への戒めです。補習を受けさせて下さい!」
「え? あ、はい。納谷くん、流石だね、分かりました」
よし。
意識高い系の言い回しで、なんとか僕は補習室に辿り着けそうだ。
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